小指の先の天使/神林長平/ハヤカワ文庫JA

小指の先の天使 (ハヤカワ文庫JA)


人間が肉体を捨て、仮想現実に生きることが可能になった時代。現実世界の何もかもを再現できるシステムにおいて、ではリアルとは何なのか、ということを追求する。表題作含む6編を収録した連作っぽい短編集。


実は、桜庭一樹の解説目当てに購入した作品。神林作品は「雪風」「ラーゼフォン」に続き3作目。買ってから暫く放置してたんですが、いや、扱ってるテーマ的に「ゼーガペイン」が面白いこの時期に読んでよかった。


解説によると、発表された年月に最大20年の開きがあるそうですが、このブレのなさは凄いかも。一番最初の「抱いて熱く」は流石にちょっと作風が違いますが、にしてもテーマは一貫してて、様々な角度からリアルとは何か、ということに切り込んでいます。展開の仕方は全然派手じゃないんだけど、壮大壮大。思索的で、脳がぐいぐい拡張されてくような感じ。


個人的に面白かったのは、2作目「なんと清浄な街」。超生システムという、彼らの意識が存在する仮想現実の世界に対し、彼らの肉体が置かれている外の「現実」。後者のことを、超生システム内に生きている人々は普段意識してはいけないよう定められている。後者に関る事物に、登場人物たちは片っ端から「メタ」という冠をつけて呼ぶ。メタ事実にメタルール。メタ殺人、メタ犯罪、メタ刑事……。冗談のようなんだけど、私には、それが安易にそういう概念を作品の解体のために持ち出す人たちを皮肉っているようにも読めてしまいました。


あーそういえば、単行本の文庫落ちでも、「本書は○○年○月に弊社より単行本として刊行された作品を文庫化したものです」とかじゃなくて、元が雑誌連載とかだった場合は初出をどっかにちゃんと書いといてくれないかなーと思うのは私だけですか?別に、ネットでそういうのをまとめてる人はいるけどさー。