夕なぎの街 十八番街の迷い猫/渡辺まさき/富士見ファンタジア文庫

十八番街の迷い猫―夕なぎの街 (富士見ファンタジア文庫)


錬金術師見習いのコウは、ちょいとわけありの身。自動人形のサヨリとともに、居酒屋「夕凪」で下働きをしている。ある日、「夕凪」に迷い込んできたのは、これまたわけありの少女、マイカ。帰る家がない彼女もまた、「夕凪」で働くようになる。第13回ファンタジア長編小説大賞最終選考作。なんか続きを熱望している人が多いらしい。


雰囲気がいいのは、よく分かります。わけありの登場人物たちが、ひとつの場所に集まって、日々を過ごす中で心を重ね合わせていく。地味ながら、前半の居酒屋での生活には心惹かれるものがありました。また、美味しそうな食べ物の描写も、この小説の魅力の一つ。ろくごまるにが、食べ物それ自体より、美味しそうな食べ物を前にした人間をうまく描くことによって結果的に食べ物を美味そうに見せているのだとしたら、こっちは調理の描写を丹念に描くことで出来上がった料理が美味そうに見えているような気がします。


……んでも、特に後半部分は二つの要素が邪魔してあんまり楽しめませんでした。一つは、ごちゃごちゃした世界観。「いあ! いあ! はすたあ! 」(いや実際にはそこまで言ってませんが)とかはまあいいにしても、「ゴーレム」とか「ビーム」とかいう単語が和風の世界観に出てくるとなあ……。もう一つは、行き当たりばったりの展開。つうかこれ、長編ってより連作短編のノリですよね。それも「キノ」とか1話1話が完全に独立した奴じゃなくて、「キーリ」みたいな。だから、一つの話としてまとめてみると微妙に収まりが悪いのかも……でも、解説で編集の人が書いてた物語の構成云々は、やっぱり完全に改善されきったとは言い難い気がするなあ。


んなわけで、この作品の続編というよりは、この作者の人の書く新シリーズを読んでみたいと思いました。もしくは、この作品なら、バトルとかあんまりなくて、「夕凪」に毎回内外からやってくる騒動を解決するような……外枠だけ見ると橋田須賀子のおばちゃんが書いてる話みたいになりそうですね。というわけで、あんまり大きな話になりそうにない短編集は読んでみるか。