キーリⅦ 幽谷の風は吠きながら/壁井ユカコ/電撃文庫

キーリ〈7〉幽谷の風は吠きながら (電撃文庫)


兵長の憑いているラジオが壊れてしまった。街のジャンク屋に診てもらったところ、修理するためには戦前に作られた、希少な部品が必要だという。北西鉱山区にならそれがあるかもしれない、という可能性にかけて、キーリとハーヴェイは再び旅に出る。


なかなか盛り上がらない序盤にやきもきしながらも、ここまで読んできてよかった……。素直にそう思える巻でした。ひしひしと歩み寄る終末の足音。列車に揺られながら、旅が好きだという気持ちは何も変わっていないのだから、このまま終わらないでほしい、と願ったキーリは、過去に囚われてしまう。しかしハーヴェイは、そんな彼女の感情を否定する。終わらない旅なんて、ろくなもんじゃないと。


クライマックス一歩手前で過去からの呼び声が主人公を誘惑するというのは、何もこの作品に限った光景ではありません。大体の場合、主人公たちはこの呼び声を跳ね除け、終わらないものを否定して前に向かいます。しかし、今作において、過去や終わらないものを否定したのは、決して前向きなものではなく、長い年月を生きて疲弊した老人の言葉であり、キーリの感情がそこに交わるものではありません。


また、変わっていないと思っていたキーリも、3年の月日の内に確実に変化しています。旅の途中に降り立った街では、ハーヴェイを慕う恋敵(?)のような存在が唐突に現れ、キーリは嫉妬という感情に駆られます。その時点では、このシリーズらしからぬ軽い話だと思って、頬を膨らませるキーリをニヤニヤしながら楽しんでいたのですが、軽いだなんてとんでもない。キーリは、ハーヴェイを助けるため、誰にも渡さないためには人を殺すことすら平気だ、とまで宣言して、実際間接的とはいえ人を殺してしまいます。


ショックを受けるハーヴェイの心境は、そのまま読者のそれと同じでしょう。まさか、彼女の変化をこういう形で見せつけられるとは。そしてキーリは、もう一度こんなことがあったとしても、自分はきっと同じことを繰り返してしまう、と自覚しているのです。兵長も最終的には直りましたが、依然寿命の問題は解決しておらず、彼らの行く末に光明は見えません。そうそう、ベアトリクスのあの豹変っぷりも気になります。


残り2冊。既に最終巻は発売されていますので、近い内に読みたいと思っています。思ってはいます。……「本当に永遠に終わらないものなんてなかった」って、語感悪くないですか?