荒野の恋 第二部 bump of love/桜庭一樹/ファミ通文庫

荒野の恋 第二部 bump of love (ファミ通文庫)

蜻蛉のような“恋愛小説家”のパパと暮らす荒野。12歳で経験した淡い“恋”の相手は、パパの再婚相手の連れ子だった!コドモの荒野には“恋”なんて皆目わからずオタオタしたけれど、それから1年あまり。新しい家族にも男の子にも慣れてちょっぴり成長した荒野が、新たなドキドキに出会う。急激に“オトナ”になっていく周囲に戸惑い、突然自分に訪れた“恋”に恐れ驚愕する―。そして、遠く離れた彼の人への想いは…。『恋の三部作』第二作。


……この、裏表紙に記載されているあらすじを書いた人は何か売りを勘違いしているのか、それとも分かっててやっているんでしょうか。本文中で「どきどき」と表記されているものを「ドキドキ」と変える意味があるのか。嘘はついてないから性質が悪い。

蜻蛉のような“恋愛小説家”の父親と暮らす荒野。12歳で経験した淡い“恋”の相手は、父親の再婚相手の連れ子だった。こどもの荒野には“恋”なんて皆目わからず狼狽したけれど、それから1年あまり。新しい家族にも男の子にも慣れて少し成長した荒野が、新たなどきどきに出会う。急激に“大人”になっていく周囲に戸惑い、突然自分に訪れた“恋”に恐れ驚愕する―。そして、遠く離れた彼の人への想いは…。『恋の三部作』第二作。


とりあえず、このように代名詞やエクスクラメーションマーク、片仮名表記を変えるだけでも、大分違うと思うのだけれど。イラストや装丁も本文の内容に合っているだけに、少し残念です。


さて、2巻では荒野の恋愛模様そのものより、父親を挟んだ……というか、山之内家というところに一緒に暮らす荒野と義母の関係の変化が興味深かったです。1巻では拒絶していた義母・蓉子さんの押しつけがましさも、この巻では文句を言いつつ、許容している荒野。妊娠で何かと不安定なのに、その上父親の浮気相手と対峙しなければならなくなった蓉子さんを助ける荒野。デザートイーグルもバラバラ死体も出てこない物語では、非現実的な要素は後押ししてくれず、時間のみを頼りに関係を構築していくしかない。ページ数を割いて見せ場を必要以上に作ることなしに、淡々と進む物語が意味するのは、ゆっくりとだが確実に進む、止まることない大人までの秒読み。これまで「GOSICK」以外はほぼ単発物のみだった作者ですが、三部作という形を取ることで、そういう描写もよりしやすくなったのだと思います。父親の正慶も、1巻では何を考えているか分からないという印象しかなかったのですが、この巻では自分の本を買ってくれた娘の友人(の姉)にサインを頼まれてほくほくしたり、娘に彼氏が出来ても世間の父親のように騒がないぞ、と自分に言い聞かせたり、人間味が出てきていいですね。「推定少女」などでは、テーマを優先するためか、単に悪役としてしか描かれてこなかった感のある「大人」「親」といった役柄の人たちに、キャラとしての厚みが増しています。


他のキャラの描写は、特に不満はないものの、山之内家の人々に比べて今ひとつ。今回登場した阿木くんは、女の子と2人で歩くにしても相手を慮ってペースを落としたり、何かと悠也と対比されているのですが……あー、まあ、気遣いが出来るだけじゃダメ、ということなんでしょうかね。出てきたタイミングからかませ犬の雰囲気はしていましたが、荒野が鉄壁過ぎたため、あっさり退場。可哀想に……。友人・江里華の、「女の子しか好きになれない」という性格は、このまま放置なのか、3巻でもう少し絡んでくるのか。


次は最終巻、17歳になった荒野のお話。もう早く出せ、とは申しません。納得いくものを書き上げてくれることを望みます。