エンジェルハウリング(10) 愛の言葉-from the aspect of FURIU/秋田禎信/富士見ファンタジア文庫

エンジェル・ハウリング〈10〉愛の言葉‐from the aspect of FURIU (富士見ファンタジア文庫)
9巻のラストがよかったので期待し過ぎたかなあ……勿論このシリーズを1巻からリアルタイムで追っかけてきて、全ての謎が一気に解き明かされる!なんて思っちゃいなかったけど……アマワと対峙してからが冗長というか、ごちゃごちゃしてるというか。凄いシンプルに要約すると「みんなの力を一つにあわせて精霊アマワをやっつけた!」でいいんだろうけど。なんかFF5のラストを思い出しました。駆け足で無理矢理まとめようとして駄目になったオーフェンよりは終わり方としては綺麗。なんだかんだで納得してしまえる辺りちゃんと解決すべきことは解決されてるんだなあと思える儲思考。あとは色々語り合って補完するのが楽しみ。あとがきがたった2Pしかないのが心残り……でもまあ、あの最後の一行をタイプしつつ身悶える作者を想像するとニヤニヤできるからいいか。


個人的に思い入れの強い作品の最後ということで、シリーズ通しての総括でも(ガωチ)


・文章
まず、信者とそれ以外の分かれ目となる文章について。「エンジェルハウリング」はズバリ「愛のお話」です。少なくとも「イノセンス」が純愛物語というくらいには。それを、「恋愛物」を真っ向からやろうとすると拒否反応が出る恥ずかしがり屋の作者が書いた結果、回りくどい表現が頻発されるようになったのではないかと……。私はあの文体は凄い好きなんで全然問題なし、というかむしろ大歓迎ですけどね。


・世界観、設定
やろうと思えば幾らでも出来るはずなのに、わざと世界を主人公が行動する範囲内にとどめていた気がします。基本的に個人のお話ってのは「オーフェン」と一緒ですね。だからいい意味で泥臭い話になる。あっちは最後の方、広げすぎた設定を回収するのにひいこら言ってたのでこれでいいと思います。ただ、この世界観は大好きなんでまたどっかで外伝でも書いてくんないかなー。


・ザッピング方式
このシリーズ最大の特徴?両方とも追っかける身としては2人の主人公による、時に平行し時に交錯する2つの物語ってのはなかなか実験的で面白かったけど、片方だけを追っかけて面白いかと言われるとと微妙な気がする。個人的には主人公の変化が明確に描かれていたミズー編の方が好きです。9巻ラスト、「距離」や「言葉を伝えるために剣がある」のくだりはこのシリーズで一番好き。フリウ編は主人公が終盤まで振り回される子供でしかなかったのが難点。


・キャラクター
特に嫌いなキャラというのはいません。好きなのは見事に萌え(≠媚び)キャラへと変貌を遂げたミズー、おいしいいところをもっていくファニク、意外と純愛なウルペン、踏み台っぷりが悲哀を誘うマリオ……ミッツォたんはコミクロンばりの不遇キャラ。あとはアイゼンとラズなんかもいいコンビでした。最後までどっちがどっちだか覚えられなかったけど。


・回顧
このシリーズが初めて世に出たのはドラゴンマガジン2000年6月号。つまり4年前。その前の月までやっていた「魔術士オーフェン無謀編」が終了、それと入れ替わりに連載開始したのがこのシリーズ。当時私は高校3年生の受験シーズン真っ盛り。その前の号の予告に載っていた椎名優のイラスト(硝化の森をバックにフリウ、サリオン、スィリーが佇んでるもの。画集収録)を見て私が最初に抱いた感想は「ああ、なんかどんどん時代が現代になってったオーフェンと違ってファンタジーファンタジーしてそうだなあ」というものでした。実際は、ファンタジーではあっても当初抱いた幻想的なものではあまりなく、どんどん泥臭くなってくるわけですが。


2000年10月、連載で先行するフリウ編から遅れること4ヶ月、ミズー編文庫第1巻「エンジェルハウリング1 獅子序章-from the aspect of MIZU」刊行。ファンの間では秋田節と呼ばれる凝った言い回しと直球ファンタジーな世界観に当時儲全開だった私はウハウハだったわけですが、当時の2chなんかを見てみると評判はそれほどいいものではなかったようです。曰く「文章が読みにくい」「最初から伏線だけで話が進んでる」「暗過ぎ」。これらについてはまあ妥当な言い分だなーと思うので否定はしません。で、そのまま特に変化もないままフリウ編とミズー編が交互に刊行されるザッピング方式で話は進んでいきます。


変化の兆候が見られたのは5巻。それまでティッシ以上のヒステリーと陰鬱さで話の雰囲気を暗くさせていたミズーが、同じ過去を持つジュディア、おどけた性格のファニクといったキャラクターと出会うことで性格が柔らかく上向きになり、それに引っ張られるように話のテンションもカタルシスも高まっていきます。2chでミズーたん(;´Д`)ハァハァな人たちが増え出したのもこの頃ではなかったかな。面白いという声がつまらないという声を上回りだしたのも同時期。単純に文句を言う人が買うのをやめた、というのもありそうです。正直、私はこの5巻、あまりにノリが軽くなり過ぎてて発売当時はつまらなかったんですが、今考えるとミズーの性格を矯正するにはこのくらいは必要だったのかもしれません。この後出た6巻フリウ編は連載分のためか文章も読みやすく、主人公の年齢、性格のおかげでノリも軽かったんであまり変わったような気はしませんでした。


そして6-7巻の刊行の間は2003年丸々約1年空くことになるわけですが、この間に作者はほったらかしになっていた「オーフェン」を完結。これで肩の荷が下りたのか、20004年1月から7-10巻を立て続けに刊行。このラストスパート、特にミズー編の7、9巻の盛り上がりはそれまでが淡々と進んでたこともあって凄かった。それまでバリバリ張りまくってきた伏線を(少なくとも話を完結させるのに必要なものは)ちゃんと回収してるのも凄いと思いました。


長々と語ってきましたが、何はともあれお疲れ様でした。現在秋田禎信は企画を
数点こねくり回してるとのことで。あんまし焦らずマイペースに仕事してくれることを願います。