もうひとつの夏へ(上)(下)/飛火野耀/角川スニーカー文庫

もうひとつの夏へ〈下〉 (角川文庫―スニーカー文庫)

もうひとつの夏へ〈下〉 (角川文庫―スニーカー文庫)


現実世界が徐々にもうひとつの世界と重なっていく。そのことに気づいた4人の若者たちは……。パラレルワールドもの。イラストは岡崎武士


上巻は80年代の香りが懐かしい話。ラノベ(当時はまだこの言葉はなかったけど)はラノベなりに80年代っぽさ、90年代っぽさみたいなのがあるわけだけど、この作品くらい当時を思い起こさせる作品は読んだことがなかった。「世紀末」の狂騒的な雰囲気の一方で、どこか虚無感をも覚える。そんな感じ。都市伝説の扱いとかあーまだインターネットがなくパソコン通信が一部の人たちのものだった時代だなーと思いもした。……が、先の地震で飛び交ったデマとか見てると、そこはあんまり変わらないかも。文章はどこか村上春樹に似ていて、ちょっと私小説っぽい雰囲気も。下巻は、昔ファンロードとかその辺りの漫画でこういう、文明崩壊後の世界でタンクトップ一枚の少年が元気に生きていく、みたいな話読んだことことあるような気がするなーと思った。


作者は1988年に「イース」のノベライズ「イース 失われた王国」でデビュー。原作とはまるで別物だった(「ゲームのイースからインスピレーションを得て構成し、ゲームを知らない読者にも楽しめるようにした結果、ゲームとは大きくかけ離れたものとなった」と本人もあとがきで述べている)ため反発はあったが、2作目である「もうひとつの夏へ」と合わせノスタルジックな作風、作者の風変わりなキャラクター性が一部に熱狂的な読者を生んだ。作者名でぐぐってみると、そのことがよく分かる。いずれも単発ではあるものの地道に著作を積み重ねていったが、1996年の「神様が降りてくる夏」以降は音沙汰がない。当時の電撃文庫折り込み冊子「電撃の缶詰め」に、『血まみれ〜』の記事があるんだけど、これが「飛火野耀が真行寺のぞみに遭遇した」ってレポート形式に なってる。ということで「血まみれ学園とショートケーキプリンセス」の真行寺のぞみはこの人の別名義だとの話もあるとか。