ズッコケ中年三人組age45/那須正幹/ポプラ社

ズッコケ中年三人組age45

ズッコケ中年三人組age45


小学生時代、モーちゃん、ハチベエハカセと知り合いの大学生の堀口さんはドライブにでかけたことがあった。そのさ中、土ぐも族と名乗る連中に拉致され、くらみ谷というところでしばらく暮らすことを余儀なくされた。三人組はなんとか逃げることができたが、堀口さんは自分の意志でくらみ谷に残ることを選択。あれから30年、堀口さんの兄がハチベエのところに尋ねてくる。


「中年三人組」シリーズ6冊目は、表紙からも分かるとおり「山賊修業中」の後日談。当時の回想に入ると前川かずお先生が当時描いたイラストがそのまま挿入されているのはいい仕事。ズッコケの中でも「山賊修業中」は特に印象深い作品のひとつだった自分としては、とても面白かったと同時に、色々と衝撃を受けた巻だった。



まず、土ぐも一族はあの後、急逝した土ぐもさまの後継者争いで内紛が起き、堀口さんたちが逃げ出すために呼んだ外部の人間が大虐殺をやらかしたせいで、散り散りになっていたという点。これは、「山賊修業中」をホラーとして読んでいて(民俗学的なアプローチとかもいくらでもできるだろうけど)、ラストも「でもまだ土ぐも一族はどこかで都に攻め入る機会を虎視耽々と狙っているのです……」的なものだと受け止めていた自分としては、その余韻が掻き消えてしまったようで、ショックだった。この大虐殺の痕を30年経ってからハチベエが発見してしまい、その謎を(マスコミが大きく取り上げたりもしつつ)三人組が追う……という展開は、ちょっと横溝正史っぽくもあり、面白くはあったんだけども。三人とももういい年だから体張った冒険はできないにしても。


次に、堀口さんは内紛の後なんとか奥さんのしのぶさんと逃げ延びることができたものの、長年の逃亡者生活で疲れ果てたしのぶさんは病死してしまい、堀口さんは気力を失ってホームレスになってしまっていたという点。これも、あの時くらみ谷に残ると言い出した堀口さんの選択がどこまで自由意志によるものだったかは怪しいにしろ、本人にとってはそれが幸せへの近道だと思い込んでの行動だと信じていたので、那須先生相変わらず容赦ねえなあと思った。最終的に堀口さんが三人組と再会してひと筋の光明が見えたけれど、このショックから脱するにはしばらく時間がかかりそう。まーこういうのって後日談の宿命みたいなもんだけどさ。


唯一の明るいニュースは、土ぐも族とは無関係に「中年三人組」シリーズの縦軸を貫いて進行していたハカセと荒井陽子の関係が、婚約成立という形で一区切りついたこと。プロポーズが成功していい雰囲気になってるのに、予め用意してた自分の銀行通帳見せて結婚後の二人の収入やマンションのローンについて語りだすあたりは流石ハカセ(笑)ただこの巻でも煮え切らないハカセにいらついた陽子が別の男とデートすることで決断を迫ってみたり、ハチベエのところができちゃった結婚だったり、モーちゃんは奥さんが浮気してたのを「自分さえ黙ってればうまくやっていける」と必要以上には問い詰めなかったり(この辺は「結婚相談所」の経験の賜物だろうか)、前々からそういう気配はあったものの中年三人組シリーズに入って男女関係の描写もますます容赦なくなってきた那須先生のこと、まだまだ波乱がありそうな気も。もしこの後婚約破綻なんてことになったら那須先生、おうらみもうす、おうらみもうす……


……劇中で三人組が「いつまでも子ども気分が抜けない」「全然変わってない」なんて評されていたけれど、そんなわけないんだよなあ。ハチベエもモーちゃんもハカセも、三十年の間に人生の酸いも甘いも経験して色々変わってきてはいる。ただ三人組の関係だけは変わっていない。そこだけは安心してよさそうだ。