新撰組学園隊士始末記 にっくき土方さま/海老沼三郎/富士見ファンタジア文庫

にっくき土方さま―新撰組学園隊士始末記〈上〉 (富士見ファンタジア文庫)にっくき土方さま―新撰組学園隊士始末記〈下〉 (富士見ファンタジア文庫)


女子高生剣士・菊江は土方歳三に憧れるあまり幕末にタイムスリップし、男装して新撰組に入隊。同級生男子の伸介も彼女を追ってきて隊士となってしまう。


女の子が男装して新撰組に、つーと今そんなアニメやってるけど、女子が男装して男子校へ(その逆も)、つーのはお決まりだし、探せば結構あるのかもしれない。でもこの作品においては菊江も伸介も積極的に活躍するわけでなく、あくまで現代人の視点を我々読者に提供する役割で、全体的な印象はライトな『燃えよ剣』という感じ(あとがきで言及してるし司馬遼太郎の創作した人物であるお雪も登場してるからある程度下敷きにしてるのは確実なんだろうけど)。筋も大体一緒で江戸での結成から五稜郭まで。文章は素朴で飾りがなく、さくさく読み進められる。この作品自体は1992年刊で作者の小説の著作はこれっきりっぽいけど、どうせならその2年後に連載開始される「るろ剣」の波に乗れればよかったかもね。


ただ現代人なりの価値観と当時のそれの衝突とか、そういうものをもうちょっと見せてほしかったな。例えば伸介が芹沢鴨のお付きになって最初は怖がってたんだけど、自分には、というか身内に対してはわりかし優しくて複雑な気持ちを抱く、というのはいいんだけど、その割に芹沢が死んでもなんとも思わない、といった辺りとか、菊江があっさり人斬りに慣れちゃう辺りとか、ちょっと残念だった。


最後のほうで、それまで土方一筋だった菊江が、病身の沖田を見て「(一人で何でもできる土方と比べ)この人はわたしがついてなきゃ駄目なんだ……!」と思っちゃう辺りはそう来るかーと思った。


イラストの橋本正枝って人はいのまたむつみの知人で風の大陸のコミカライズやテイルズの挿絵とかもやってるのね。表紙だけだと一瞬勘違いするなこれ。