魔術士オーフェンはぐれ旅 我が森に集え狼/秋田禎信/富士見ファンタジア文庫

我が森に集え狼 (富士見ファンタジア文庫―魔術士オーフェンはぐれ旅 4)


旅の途中、フェンリルの森でフィエナという少女と出会うマジク。軽い気持ちで世間話をしていたが、彼女はドラゴン信仰者の村における巫女のような存在で、魔術士を憎んでいる村の者達にマジクは捕らえられてしまう。オーフェンとクリーオウは村に救出に向かうが……。


ディープドラゴンが初めて登場し、レキがパーティーに参入、サルアによって後のキムラック編への布石が打たれる重要な巻だけど、どちらかというとここに来てノリにノってきた随所に見られる秋田節の方に目を奪われた。

彼らに追いつかれたら具体的にどうなる、ということをはっきりと自覚していたわけではないのだが、男三人で少女を追い回す、という状況に潜む危険性は本能的に察知していた。

あのよ、危険から護って欲しいなら、いくらでも護ってやるよ。そのくらいは無料でいいさ。幸せになりたいってんなら、それなりの代償を払えば―――つまり、化粧したり媚び売ったり、なんやかやすれば、騙されやすい男はいくらでもいるんだ。だがよ、泣いてんのは、自分で泣きやまなけりゃ、どうしようもねえからな

部屋の入り口から奥のベッドまで、掛け橋のように落ちている服は、脱ぎ捨てていったものらしく、手前からサマーセーター、ブラウス、下着、スカート、靴下と続いてる。なんで下着とスカートの順番が逆なのか、よく分からなかったが。(略)ベッドのシーツはぐしゃぐしゃで、毛布にくるまって、死体みたいな格好で若い女がいびきをかいている。髪の毛がぼさぼさになった頭のほかは、素肌の足だけが毛布からのぞいていた。


貧弱な男根支配的腐敗思想(byクリーオウ)とまでは言わんけど、そんなようなものから一歩引いた秋田の女性観がよく出てる文。特に一つ目と三つ目は、サービスシーンは否定しないけど、話の上で必要なシーンに対しては必要以上に色っぽい描写をしたくない、という特質がよく出ている。情事の後の女性を「死体みたいな格好」とか描写するラノベ作家を初めて見ましたわワタクシ。フィエナとマジクに関してもすごいあっさりしてたな。

普通知られている限りでは、拳銃というのは単に近接戦闘の切り札として用いられるものだ。だから左手で使う。それ以外の運用方法も習ったオーフェンは知っていたが、少しでも距離をおけば当たるものではなかった。

空間転移といったところで、文字通り空間を跳躍できるわけではない―――魔術で質量をごまかして、絶大な加速をかけるといった意味でしかなかった。つまり、目に見えなかろうが壁があればぶつかるのだし、そんな加速状態で衝突したのならば、すさまじい衝撃を受けることになる。

失敗すれば、全身の細胞が沸騰して完全消滅を起こす。転移する間に壁やらなにやらの障害物が入れば、それだけで衝撃死する可能性も高いしな。それでなくとも、大気摩擦だけでとてつもない熱量が発生する。身体がそれに耐えられなければ、一瞬で衰弱死する


拳銃は基本的に当たらない。(人間の黒魔術士が使う)空間転移はすごい速度での移動でしかない。基本的に問答無用の攻撃力なんて物はなく、あったところで「魔剣は魂を吸わなきゃ」的なハイリスクを強いられる。でも同じ巻の中でそれを逆手にとった攻撃方法を実践してしまう辺りに痺れる。でもあの擬似空間転移アタックって、結局決定打になったことなかったな・・・・・・

当て布にされたのは手縫いのハンカチで、少年時代、姉のように慕っていた女魔術士から誕生日にもらったものである。

俺はキリランシェロだ―――俺に殺せないものはないんだ!チャイルドマンが、そう約束した―――やめないと、お前らを殺すぞ!


1巻であんなことがあっても、過去は遠ざかるどころからむしろ以前より纏わりついてくる。オーフェン自身もはっきりと全てを否定する気にはなれず、思い出の品を大事に取っておいている。どれだけ暗殺技術を忌避したところで、最後の最後にはそれに頼らざるをえない。そんな自己規定から出たオーフェンの絶叫には、―――きゅぅぅぅぅんっ♥♥♥となった。しかしこの巻のクリーオウの行動は一段とアレだなー。


その他。

  • 「たとえあなたが非道のかぎりを尽くして世界中の全てを敵に回したときも、わたしは味方でいてあげるからね、って話♥」後日談を読むと実際その通りだったんだなーということが分かる。
  • 「お前を守るために必死だったんだ」とかあからさまな嘘と見せかけて、使う状況が間違ってるってだけでわりと本音な台詞って結構多くてニヤニヤ。
  • 「あなたはあまり、上を見ないのね」この時点ではそういうことだったらしい。『機械』では人並みに向上心がある奴だと思ってたんだけどなー。
  • 「探していたんです……」「あ、あなたを」ってそれだけ聞くと告白みたいだな。
  • 外にダダ漏れの念話に意味はあるのでしょうか。