冬のディーン 夏のナタリー(1) 〜(3)/氷室冴子/集英社コバルト文庫

冬のディーン 夏のナタリー 1 (コバルト文庫)冬のディーン 夏のナタリー 3 (コバルト文庫)


弟に彼女を寝取られ、その傷心を癒せぬまま受験に臨んだ優等生の主人公は半ば予想通り失敗。滑り止めの大学に行くことになるが、そこで「ひと夏の思い出」としてお互い忘れようとしていた女と再会することに。しかも有名女優の娘だという彼女は同じアパートに住んでいて……。


面白かった。八方美人の兄貴と不良気味の弟、芸能人の娘と嫌々そのお目付け役みたいなことをやらされてる幼馴染……といった魅力的なキャラクターたちが絡まりあって、どんどん事態をややこしくしつつ、話を広げていく。1ページ先がどうなるのか気になってしょうがなく、ページを繰る手が止まらなかった。『海がきこえる』もそうだけど、自分にとっては基本男性主人公の方が受け入れやすいのかも(といってもこの作品は視点が散らばってて群像劇的な一面もあるけど……)。氷室冴子作品の中でもお気に入りとなった。


しかしこの人の作品の登場人物はよく喋るなあ。その分一つのシーンが長くて小説内で流れる時間がすごい短い。あらすじ聞いてキャンパス恋愛ものだと思ってたのに、1巻冒頭で入る大学を決めてから3巻終了時点でまだ本格的な学生生活がスタートしてないんだから。それだけに未完というのが酷だ。残酷です。序章がようやく終わり大学生活が始まってさあこれから、というところなのに……訃報を聞いてから1年。つくづく惜しかったなあ。


あと調布駅から歩いて20分の学生アパートが、「8畳間2つに4畳半のキッチン、風呂トイレは別」って80年代としては普通なんだろうか。ちょっと気になった。