老ヴォールの惑星/小川一水/ハヤカワ文庫JA

老ヴォールの惑星 (次世代型作家のリアル・フィクション ハヤカワ文庫 JA (809))


4編中3編にそういった要素アリ(残りの1編はそもそも人間がほとんど出てこない)という、寝取られSF短編集。……とか書くと各方面から石を投げられそうですが、長年積んでいた小川一水を読もうと重い腰を上げたきっかけはそんなことだったりする。


NTR物の内訳は、地下迷宮に幽閉された政治犯たち。非文明的な生活空間において主人公が出会った少女。二人はやがて結ばれることになるが、敵対する勢力に彼女が攫われて……な「ギャルナフカの迷宮」。若い男女のカップルと、その女の方を想っている彼らの恩師。望めば何でも叶えてくれる仮想現実世界で、この三角関係は、もう一人の彼女を生む。男の目に映る恩師と親密にしている彼女は、果たして本物の彼女なのか。本物でないとしてどこに違いがあるのか……な「幸せになる箱庭」。事故で無人惑星の海に漂着。いつ来るとも知れない救助を待ち、通信機での妻(を始めとした人たち)との会話で孤独と無聊を慰めるが、声は聞こえるのに実際に触れることのできない寂しさに妻が耐えられなくなり……という「漂った男」の3編(※この文章の表現には一部誇張・演出が含まれています)。


……んー、でも、どうなんかなー。NTRっつうか、失恋を乗り越えるべき障害、成長要素としてストーリーの中に入れるってのは、まああるよなー。この3編の物語も、基本的には前向きな終わり方だし、NTR描写もそんなねちっこいものではないので、作者がそこら辺を意識して書いてるとは……いや、でも4編中3編ってのは偶然で片付けるにはやっぱり多い気はするなー。


そういう個人的趣向を除けば、「漂った男」が一番世界に入り込めた。表題作「老ヴォールの惑星」は鮮烈なはずの異種生命体のイメージを自分の頭の中で描き切れなかったのが残念。