リュカオーン/縄手秀幸/富士見ファンタジア文庫

リュカオーン (富士見ファンタジア文庫)


スレイヤーズ』からの連想読書。神坂一と共に第1回ファンタジア長編小説大賞で準入選し(この時の佳作が冴木忍)、〝軽"のスレイヤーズ!と並んで"重"のリュカオーンと称された作品。その辺の詳細はこちら。『セルフ・デストラクティブ・シンドローム』なる現象とそこから派生したある計画により、人類の大部分が異形の存在と化してしまった奇妙な未来を描くオカルトSF。


まず、現存ずる人類とはかけ離れた異形の者たちがごく普通に闊歩する街、ひいては世界そのものに魅入られた。その妖しい雰囲気に、当時ソノラマで菊地秀行の著作等を中心にばりばり仕事をしていた天野喜孝のイラストが、あつらえたように馴染んでいる。


また、既存の小説やゲームの世界設定をうまく取り込むことで、とにかく説明を削り、軽快なテンポを実現していた『スレイヤーズ』と違い、やれ水晶髑髏だフィラデルフィア実験だダークマターバイオハザードだ事象の地平線だ……とオカルト要素ぎゅうぎゅう詰め。これでもか!これでもかっ!と作者のやりたいことをつぎ込んでいて、凄い密度。300P程度じゃ俺は収まり切らないぜ、という熱気が伝わってくる。正直、10数年前の初読時ですら一つ一つのネタはそう目新しくは映らなかったけど、それを一つの独特な世界としてねじふせ、結末までぐいぐい引っ張っていくパワーに圧倒された。


前述した解説もあって、『スレイヤーズ』と比してやたら重厚なイメージを持ち続けていたけど、意外にユーモラスなところもあり。型破りな個性はないにしろ主人公コンビであるサイボーグの大男と天真爛漫な少女のキャラクターも魅力的で、つくづくこの1作で消えたのが惜しまれることよ。


あと、当時は分からなかったけど、登場人物の一人の名前が「カトゥルフ・クゥ・リトル」というもので笑った。何がおかしいかっていうと、『スレイヤーズ』の魔王の名前もアレ経由の「シャブラニグドゥ」なんだよね。意外なところで共通点が。みんなそんなに邪神様が好きか!