誰しもそうだけど、俺たちは就職しないとならない/秋田禎信/TOブックス

誰しもそうだけど、俺たちは就職しないとならない

就職活動はまず、寝っ転がって同居人と語り合うことから始まる。
誰でも知っているし、反論などあろうはずもない事実だ。
語り合うことには、些細なこととすませられない側面がある。土の中に金が埋まってるかどうか、掘り起こしてみないことには分かりようがないからだ。


あの『カナスピカ』の後に、「とにかくヘンテコなものを作ろう」という誘いに乗って、出来上がったのがこういうどこからどう見ても秋田でしかない作品だってのも、らしい、というかなんというか。


「就活エンタテインメント」と銘打たれてはいるけど、就活あんまりしてない。いや、OB訪問とか大学の就職指導室行ったりとか説明会に参加したりとかしてはいるんだけど、どこに行っても変わらず主人公の大学生二人(語り手の田代じゃない方は最後まで名前が明かされなかった)と企業の人らが、延々とテーマに沿っているかのように見せかけた会話を繰り広げる。公式サイトで、主人公2人がアパートの一室で「就職とは何ぞや」的な会話を続ける(だけの)第1話が公開された時、「このままアパートから一歩も外に出ないんじゃないか」と想像した人がいたけど、あながち外れではなかった。基本的に1話のノリは全編通して維持される。

  • 誰しもそうだけど、俺たちは就職しないとならない
  • 指導によりすべてを学ぶ
  • 経験者は語れ
  • 非常に高度な科学の話
  • 本気のベンチャー
  • (株)渡邊抹殺
  • 俺が帽子産業を目指さないいくつかの理由
  • 出版社の条件
  • 園生田半生記
  • 特別寄稿
  • ねばならぬ


目次はこんな感じ。


地の文をこねくり回さず、会話劇で魅せる。ツッコミ少なめでボケっぱなし。ローテンション。そういった点から、とりあえず秋田節を楽しめばいい……というか、それ以外の楽しみ方が困難な『閉鎖のシステム』を、企画開始当初は連想していた。だけど、実は登場人物及び作者は結構真摯に就職するということに向き合ってて、『閉鎖』と違ってそこら辺の主張?を読者が受け取ることも比較的容易な気がした。会話がどんどんずれてくからコメディに見えるだけで。


企業が求めてる人材とか、学生が就職したい企業の基準とか、組織で生き残るためには実務能力よりもっと大事なことがあるとか、ベンチャー企業の本質とか、消費者の図々しさとか、出版業界の未来とか、起業成功者はなんで苦労談があんなに好きなんだろうとか、時々真理……真理っぽいことを突いてきたりするから侮れない。

その就職活動も作中では、見るもの聞くもの、全てが狂気に満ちた歪な世界。
しかしそれら全てが単にデフォルメでしかないと気付いてみると、とりあえずこの本は、風刺と皮肉で満ち溢れたブラックジョーク短編集なのかなあという風に見えてきたりもする。個人的には、もしかすると絶望先生に近いのかもしれないなあとも思えてきたり。いや、こっちは別に絶望に打ちひしがれる訳でも希望に満ち溢れる訳でもなく、ただ淡々と社会の奇天烈に対して学生の奇天烈な目線で向かい合うだけなのだけれど。

http://akiradio.oh.land.to/nicky.cgi?DT=20080402A


つまり、そういうこと。


また、単なるコメディとは言うものの、なんだかなあ、という終わり方が多くて作者が疲れている感じが窺えなくもなかった『オーフェン無謀編』終盤と比べると、1話毎のオチにも気を遣っていて(?)、無理にテンションを上げようとしなければコメディとしてもまだまだ面白可笑しいものが書ける、ということを再確認できたのは嬉しかったな。