まんが家マリナ最初の事件 愛から始まるサスペンス/藤本ひとみ/集英社コバルト文庫

愛からはじまるサスペンス―まんが家マリナ最初の事件 (集英社文庫―コバルト・シリーズ)


ライトノベルには大概個性的なキャラクターがいっぱいいるけど、これもかなりのものだった。主人公は、まだ10代の少女漫画家で、取材をするために音大付属の女子高に忍び込む。しかし、そこで殺人事件に巻き込まれ、死体の第一発見者となってしまう。まあ、ここまではよくあるパターンよね。それではその時、彼女のとった行動とは。警察に連絡することでは無論なく、現場を調べることでもなくー――漫画のために、滅多に見られない(池に浮ぶ)死体を一心不乱にスケッチすることだった。


それを友人に責められた時の彼女のコメント。

(前略)……いい?あたしのとった行動が、皆さんとぜんぜんちがっていたとしてもよ、だからってあたしがショックをうけてないってことにはならないでしょう。絵描きというものはね、それがたとえ三流の少女まんが家であったとしてもよ、喜びにつけ悲しみにつけショックにつけ、とにかく感情の起伏するたびに、描かずにいられないという宿命の星を背負ってるものなのよ。だいたい、あたしがあの時描くのをやめて彼女をひき上げるか、もしくは救急車に電話でもしていたら生き返ったかもしれないっていうんならともかく、どっちみち完全に死んでたんだから、何をしようと同じことじゃない。今さらとやかく言わないでもらいたいもんだわ


……それはひょっとしてギャグで言ってるのか(AA略?ちなみに、彼女はカタストロフの映画を見ながらカレーライスを食べられるそうで……。1エピソードの1ゲストとかならともかく、これが主人公で、しかも物語は彼女の一人称で語られる、ってのが凄い。某ロバーズキラーだって、実際に盗賊の死体を前にして「悪人に人権はない!」とは言い放つまい、というかそういう描写は作者はするまいよ。あの作品、特に本編はそういう至極真っ当な倫理観が支えてたわけだし。しかもこれ、現代劇(もう既に20年以上前だけど)なんだよなあ。この話で起こる事件自体はいたってシリアスなものだけに、主人公のキャラだけが凄い浮いてる。アレだ、渡辺道明の漫画みたい。……そういえば、この人がスニーカー文庫王領寺静名義で書いてた『異次元騎士カズマ』も、そういうノリだった。バイオレンスな描写が多いのも、てっきり少年系レーベルだからこそだと思ってたんだけど、コバルトでもこうだとすると、そういう作風なんでしょうかね。