怪男児/夢枕獏/日本出版社Excel Novels

怪男児―出雲あやめ18歳 純情にして凶暴 (エクセル・ノベルス)


童貞力、という俗語がある。
字義通り、男が性に目覚めてから童貞を喪うまでの期間において、創作活動や体育活動に対して、童貞だからこそ発揮される力のことだ。
それは、特にエロ漫画家なぞに顕著で、彼の描いているものから、ふっ、と女への駆り立てられるような焦燥が感じられなくなった時、読者は、ああ、こいつは童貞力を喪ったんだな、といとも容易く見抜く。童貞を喪ったからといって必ずしも童貞力まで喪うとは限らないが、そういう人間が多いのも、また事実だ。
出雲あやめはまさしく童貞力を最大限に発揮している男である。
年は十八。惚れ惚れするような巨躯の持ち主だが、その性格は純情で、むっつり助平。ところ構わず勃起し、エロ妄想に走るが、それを高村光太郎の『智恵子抄』でもってなだめている。理想の女性像は、その中に出てくる高村智恵子で、ちょっと好みの女が出てくるとすぐに彼女を智恵子と重ね、またその女のことを智恵子と呼ぶ。父は水商売チェーン店の経営者で、いつか彼にストリップ劇場の一軒も任せようかと思っているが、本人はそんな気はさらさらなく、少女漫画家になるために大学の芸術学部に通っている。
普段は無口で温厚な彼が変貌するのは、ハンサムな男が複数の女を相手にしている時と、愛のないSEX、その気もないのに避妊をしないSEXがされたことを知った時である。
そんな時、彼は怒る。嫉妬し、怒り、凶暴になりながら、勃起する。自転車に乗って最高速度140キロを叩き出すことすらできる。童貞力のなせる業だ。
そんな彼を主人公にしたのが、この青春小説『怪男児』なのだ。
面白いぜい。