ノベルスというかたち
文庫本で出版される作品は、多くは以前に上製本(ハードカバー)の装訂をもつ比較的大型の本として出版された作品を、普及のために版をかえ、普通2年半から3年の間をおいて出版するものが典型的である。
しかしながら、近年では、この種の形態の本がもつ安価さなどの利点から単行本としての出版の初出が文庫であるものも存在し、特に旅情ミステリーや、ライトノベルなど低年齢層向けのジャンル、自己啓発書、官能小説、また、コンビニエンスストアや駅売店などの書店以外のルートで多く販売されることを想定した軽い話題を扱った書などに多くみられる。平成以後は漫画文庫の創刊が目覚しい。 ある種、安売り読み捨てとしてのフォーマットとして用いられることもあり、この場合は米国におけるペーパーバックと同等の出版形態とされる。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%87%E5%BA%AB
1938年当時、文庫はまだ判型が定まらず、小型の叢書という程度の意味であり、現在の新書に近い判型のものも含んでいた。
そんな中、すでに岩波文庫を発行していた岩波書店が、判型・内容ともに岩波文庫とは違うものとして創刊したのが岩波新書である。古典を収録する岩波文庫に対し、岩波新書は書下ろしを中心として、「現代人の現代的教養を目的」(巻末「岩波新書を刊行するに際して」岩波茂雄)とした。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%B0%E6%9B%B8
岩波文庫が創刊されたのが1927年ですから、カッパノベルスまで30年ほどのひらきがあります。その間、小説は単行本と文庫でしか販売されず、新書という形態では販売されていなかった、もしくは、販売されていても影響力はなかったのでしょう。そこにカッパノベルスが登場し、人気を博したために、「新書版の小説=ノベルス」と呼称されるようになったものと思われます。
http://d.hatena.ne.jp/kazenotori/20060422/1145680691
田中 86年の夏に角川文庫で「ジュブナイル・フェア」という一大企画をやったんです。若手作家と中堅作家を五〇人近く集めて、書き下ろし文庫を一気に怒涛のごとく出すという。その一つが『アルスラーン戦記』だったんです。
―――一気、ですか。
田中 そう、一気。本屋さんの平置き台を占領した感じでした。思えばずいぶん力の入った企画で、その後の文庫書き下ろしスタイルというものの呼び水になった感じがあります。
(中略)
―――なるほど。当時は文庫書き下ろしというだけで冒険だったのでしょうね。
田中 そうでしょうね。企画の説明を受けて「へぇ、そんな手があったのか」と思ったくらいですから
「ライトノベル完全読本3」より
- 光文社カッパ・ノベルス(1959)
- カドカワノベルズ(1981)
- 講談社ノベルス(1982)
- 中央公論社C★ノベルズ(1982/1993にC★ノベルズファンタジア創刊)
- 徳間ノベルズ
- 双葉社ノベルス
- 祥伝社ノン・ノベル
- ZIGZAG NOVELS
- JUMP J-BOOKS
- 朝日ソノラマノベルズ
- EXノベルズ
- コナミノベルス
- 昔の自分が持ってたイメージ:渋いミステリと架空戦記中心で、中年の人の読み物
- 現在のイメージ:ミステリと架空戦記が多いことは間違いないけど、書き下ろしのエンタメ小説の発信基地?ハードカバーの単行本は偉い作家先生が書く誰にも恥じることない立派な本、文庫はその廉価版、そこで書き下ろしの読み捨て……とまではいかなくとも比較的軽い感覚で読める小説としてのノベルスの存在が、とか。
- 菊地秀行、夢枕獏始めジュブナイルと呼ばれていた小説でデビューした人がノベルスに行く流れ。田中芳樹のように、その逆の流れ。ライトノベルの上位存在つーか、比較的近しい形態としてのノベルス?まあこの時代はまだライトノベルなんて言葉はないし、この二人は元々そういう資質があって、たまたまデビューがジュブナイルだったに過ぎない、という気もするけど。
- 現在は、パッと思いつくのは講談社ノベルス/祥伝社ノン・ノベルで書いてる上遠野浩平と、あとはそれこそ一部のミステリと架空戦記の人くらい?レーベルでは中公C★ノベルズ辺り、あとは最初からそういう需要を見込んで創刊されたレーベルか。まあ例外はいくらでもあるんだろうけど、ライトノベルレーベルの人気作家を招聘して、ってのは盛んとは言えない。内容の独自性が高く、文庫版ライトノベルレーベルと新書版ノベルスに求められるものが違うから人気作家を招聘しても売れない、ということだろうか。それだけ書き下ろしエンターテインメント小説発表の場所としてライトノベルが定着してる……というのはいくらなんでも過大評価よね。