樹海人魚/中村九郎/小学館ガガガ文庫

樹海人魚 (ガガガ文庫)


いつも通り、裏の世界で人知れず異形の物と闘う女の子と、男の子の話。これまでの4作の中で、最もバランスがよかったんじゃないでしょうか。文章は『ロクメンダイス、』ほど眩惑的ではないし、設定も『アリフレロ』ほど分かり辛くはないし、キャラクターの心情も比較的理解しやすかった。筋道も懇切丁寧。まあ、会話で世界設定を延々と披露するのはやめてほしかったけど……。でもあとがきはやっぱり九郎先生。あとがき買いの人には、はたしてアレはいい方向に働くんだろうか。


一方で、九郎先生っぽさが薄れてないなあと思ったのは、一枚絵みたいに印象的な、鮮烈なイメージを焼きつける情景。見せ場、というのとはまた違うんだけど、こういうのよく思い浮かぶよなあ。どの作品でもラストにそういうシーンを持ってくるので、多少話に分からないところがあっても、基本的に読後感は爽やか。


自分的には、普通に読む分にはこのくらいがちょうどいいかも。分かり易さとしては、樹海人魚>>>ロクメンダイス、>>>黒白キューピッド>>>アリフレロかなあ。


そういえば、もう4作目なのに、全部単発物なんですね。シリーズ物がメインのライトノベルとしては、こういうのって、なんとなく大切に育てていこうという編集側の意思が感じられる、気もする。MF文庫Jで書き始める前の五代ゆうみたいな。……単に売れなかっただけかもしんないけど。今年の二作についてはまだ可能性はある、か?でも、主人公とヒロインについての話としてはどれもこれ以上ないほど完全無欠に完結してるので、続編が出るとしたら世界設定だけ借りた別物かなあ。でも、そもそもがこれまでの4作全部男の子と女の子が人知れず裏の世界でどうこう、って話なのであんまり意味ないかも。


ところで。

当たり前のことを当たり前にできるひとなど、多くはいないであります。誰しもがなにか犠牲にしたりすっ飛ばしたりして、歪みながら体裁を繕っているのであります。なりたいものになれるのは、なりたいと気づいたひとだけでありますよ


どっかの幽霊マンションの住人に聞かせたい台詞。