食卓にビールを(6)/小林めぐみ/富士見ミステリー文庫

食卓にビールを〈6〉 (富士見ミステリー文庫)


最後だからいって特別な何かがあるわけでもなく、あっさり完結。非常にこの作品らしい終わり方でしたが、これならストックさえ貯まればいつでも再開できそうだなあ、なんて思っちゃったり。


この作品の魅力、というのは軽妙な語り口だとか机上の空論(というのも本来の意味からちょっとずれますが)が平気な顔して闊歩してるところだとかもあるけど、自分にとっては主人公である"私"と旦那との掛け合いが大きかったなあ。

「動物園は臭いからいやだ―。ぬいぐるみでいいでーす」
「そんなわがままな。動物ってのは臭うもんなんだよ。人間が檻に閉じ込めてるのに身勝手なこと言わないの。第一、俺だってあなただって体臭はあるんだから」
旦那は「めっ」とまなじりを上げて窘める。私は口を尖らせて、
「そんな正論言ってたら、いつまでたっても改善されないと思いまーす。因みに自分の体臭は気づかないし、旦那の体臭は気にならないものでーす」
そう言うと、旦那はなにも反論できなくなってしまった。顔を赤らめ、そっぽ向く。うひゃひゃ、照れてますなっ。

「ええい、病人のくせになにしてやがるのですか!」
「わっ、びっくりした。お帰り」
「お帰りじゃありませんっ。ちゃんと寝てなさいっ」
「だって寝てるの飽きちゃったんだよう」
背中をうりうりと踏みつける私に、旦那は情けない声で弁明した。


この巻から分かりやすいところのを抜き出すと、こんなんで。作者があとがきから抜け出してきたような、ヘンテコな文芸部所属女子高生兼SF作家兼カリスマ主婦見習い幼な妻と、近い将来の頭頂部の毛髪が心配な、ちょい疲れ目のいたって平凡な旦那と。新婚なのになまじベタベタしてない分、すごい絶妙な距離感を保ってるんだけど、一周したらその様子がすごいイチャイチャしてるようにしか見えなくて。夫婦パートを読んでる最中ニヤニヤしっぱなしでした。これまで読んできたラノベの中でも随一のカップルかもしれない。


まあ、SFネタが話の核であることは変わりないと思うけど、そういう楽しみ方も全然アリじゃないかなあ、と純粋人文系の自分は思ったのでした。それっぽい表紙に騙されたけど全然"萌え"とかじゃなかったーって人はそういうところに目を向けてみるのも一興かとっ。