ある日、爆弾がおちてきて/古橋秀之/電撃文庫

ある日、爆弾がおちてきて (電撃文庫)


「人は皆、それぞれの時間を生きている」ということをテーマを、ボーイミーツガールで料理した短編集。せっかくなので、一つ一つ感想を。

ある日、爆弾がおちてきて

恣意的に見ればセカイ系パロと取れなくもない。キミとボクのキミは世界を守る存在でなく、逆に世界の破滅を願う存在だった。でも『サイカノ』にしてもなんにしてもここら辺は表裏一体で、むしろ「世界の命運を握る人」ってのが正しいのかなあとか。『サイカノ』ではアケミ、『イリヤ』では晶穂みたいな、『世界』の方に留まろうとしてて、最終的には主人公に置き去りにされる人たちがここでは人類を救った。電撃法政学閥で、上遠野浩平が先駆者として『ブギ−ポップ』を書いて、数年後に秋山瑞人が直球ど真ん中の『イリヤ』、そして古橋秀之が構造を一度解体して必要最小限の部分だけで構成されたこれを作り上げた、とか。妄想乙。まー私は『ブギ−ポップ』のどこがセカイ系なのか全然分からない人なんですけどね。

おおきくなあれ

幼馴染の女の子が幼児退行。恣意的に見れば鍵ゲーのパロと以下略。ホントの元ネタはSFなのでこんなこと言うと怖い人に怒られそう。っつうか、鍵ゲーの元ネタがSFなのか。そういえば真琴を見るのが辛いので『Kanon』はいまだ途中で止まってます。

恋する死者の夜

ホラー調の異色作。感想を見て回ってると、「むかし、爆弾がおちてきて」とこれが人気みたいです。同じ日の、同じイベントを延々とループし続ける彼女と、それに付き合う彼氏ってのが、なんとも薄ら寒い。あるいは主人公である「僕」も既に死者の仲間入りをしているのかもしれない。……そもそも、自分が生きていることに何の疑問も抱かなかったあの頃から既に、ルーチンワークを繰り返すだけの「僕」は死んでいるも同然だったのかもしれない、とか。くろすちゃん、寝る。

トトカミじゃ

ババァロリ。この短編集の中では最もキャラクターものの側面が強くて、時間ネタとしてはやや弱い気も。作者的に読者的にも小休止?

出席番号0番

ギミックが少々ややこしくて、一番もったいない感が強かった。基本的にこの短編集って、その一つ一つで色々妄想できるようになってるんだけど、この話にはあんましそういう部分では惹かれなかったなあ。

三時間目のまどか

一番好き。ルーチンな授業に退屈して、ふと窓の外を見たら非日常的な存在が、ってのが。結局、彼女は非日常的な存在でもなんでもなく、フツーの人だったわけですが。日々、狭い教室に大勢で押し込まれて授業を受けることに飽いている中高生の思考が、何かを求めてほとんど壁一面に大きく開かれた窓の外に行く、ってのは至極当然だと思うのですよ。つうか、学校の窓がああも外側に開かれてる、ってのはなんか文科省からのお達しでもあるんですかね。息詰まりを解放するために、とか。枠に嵌め込まれたガラスの向こうにいる女の子に向かって独り言を発する少年、ってのはなんだか我が身を顧みさせられます。

むかし、爆弾がおちてきて

短編集を締めくくるに相応しい、スケールのでかいエピソード。一人の人間にしてみれば永遠と呼べるほどに引き延ばされた時間。それを戦争の傷痕だ、と言って有り難がる人たち。主人公がああいった行動に至までの感情の変遷が描かれてない、という意見もどっかで見かけてて、それは、あの短編内では確かにそこらへん弱いけど、短編集全体の枠組みとして見ると納得できるような気がする。


……しかし、「面白いなあ」という感想より「あーもったいなあ」という感想が先に出てくる辺り、まだまだ自分は短編を理解する能力が足りないなあ。特に今回のは、文章が詰まってなくて、サクサク読めるような親切設計なので、余計にそう感じてしまいました。でも、そっちのが話の構造は浮き彫りにされてる、ような。


ちなみに、今まで読んできたシリーズ物ではないライトノベルの短編は、


いかにも少ないね。やっぱり経験値不足は否めず。

他の人の感想

べつに「爆弾」なんか無くても起こる(起こりえた)出来事に変化は無かったはずの話。話として喩えられると爆弾になって、イラストとして可視化されると人間爆弾になる。その過剰さは、イラストが付くことを前提に書かれたから可能になったものだと思う。

これほどミもフタも無い(←言い方)表現ができることがライトノベル(あと、いわゆる美少女ゲームとか)の強みなのではないか。言い方買えると荒唐無稽な話をイラストが支えてしまうという。


http://d.hatena.ne.jp/stupa/20051011#p2

ただ、三時間目のまどかは大好き。ウィンドウのなかにだけいる美少女という設定が大好き。ウィンドウの中にいる美少女って書くと、エロゲーみたいだよね。


http://d.hatena.ne.jp/wtnb18/20051106/bomb

黒古橋/白古橋で黒古橋を!って感想を読むとエロ漫画で陵辱もので人気の出た漫画家が和姦ものを書き出すと、和姦はいいから陵辱もの書けよ!って意見が出がちになるのを連想してしまいます。


http://d.hatena.ne.jp/sukemon/20051030#p3

徹底的にえろげーフォーマットで書かれたエピソードの数々、そして結末。ここまでくると、「ありきたり」というネガティヴな言葉は適切ではない。様式美の極致というべきだろう。


http://d.hatena.ne.jp/trivial/20051030/1130682938


あと、ここの作品解説がよくまとまってると思います。