ドラキュラ紀元/キム・ニューマン 梶元靖子訳/創元推理文庫

ドラキュラ紀元 (創元推理文庫)


もし、あのドラキュラ伯爵との戦いにヴァン・ヘルシングが敗れていたら。あまつさえ、ドラキュラがヴィクトリア女王と婚約、大英帝国を支配し、ロンドンが、吸血鬼が大手を振って闊歩する魔都と化していたら。「吸血鬼ドラキュラ」のありえない未来を描いたIFのお話。


凄い。こりゃ凄い。世界的に有名な小説のIFってだけでも大変なのに、シャーロック・ホームズ(の兄)、モリアーティ教授、切り裂きジャック、ジキル博士、Dr.モロー、はてはブラム・ストーカーの家族まで、歴史上実在するしないに関わらず古今東西の有名なキャラクターがまさに虚実入り乱れて登場するんだから、もうやりたい放題。出てくる人名は実に300人、巻末の人名リストは50ページに及びます。訳者あとがきで、本編の翻訳よりもそちらを調べる方に時間がかかってしまったと白状する有様。でも、本書の凄いところって、子どもかオタクが妄想したような筋でありながら、ちゃんとお話として成立してるところではないなでしょうか。私自身、今年初頭にブラム・ストーカーの原典を読んだばっかりで、吸血鬼物に詳しくないのだけど、十二分に面白い。多分、造詣が深ければもっと楽しめたんでしょうけど、そういう元ネタに当たりたいと思わせるのって、まず本編が面白くないといけないと思うのですよ。その点、これはすごい面白かった。ストーカーの原典に比べると、アクションありのお色気ありので、まさに血湧き肉踊るという感じでした。


つーか、あれですよね。この人のオタク気質には、海外にもこういう人がいるんだなあ、と勝手な共感を覚えずにはいられません。見かけは16歳の美少女だけど実年齢は470歳のロリババア吸血鬼とか、どんなジャパニーズオタクの発想だよ。という視野の狭い考えこそがまさによくないオタクの発想なんだろうけど、イギリス王室の扱いとか、宗教観とか、なんとなくこういう無節操な話ってそういうものに対してニュートラルな日本人にしか書けないと思い込んでました。


まあ、なんにしてもロリ吸血鬼のジュヌヴィエーヴたん素晴らしい。作者の人のただならぬ愛を感じます。


ああ、GONZOの「巌窟王」スタッフ辺りがアニメ化しないかなあこれ。

とりあえず、その内読んどきたい吸血鬼関連


ドラッケンフェルズ―ウォーハンマー・ノベル (角川文庫)

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吸血鬼カーミラ (創元推理文庫 506-1)

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シャーロック・ホームズ対ドラキュラ―あるいは血まみれ伯爵の冒険 (河出文庫)

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つうかそのオタク気質に勝手に共感を覚えてはいたものの、一番上、ニューマンが別名義で出した、ジュヌヴィエーヴ主人公の小説が、安田均の手で翻訳されてたとは。TRPG畑の人間じゃないし、著作も読んだことないので、微妙と言えば微妙な距離の人なんですけど、それでも、なんか納得してしまった。