「GOSICK」を富士見ミステリー文庫エースに据えた時の不安要因


ここら辺を見ると、「GOSICK」が富士ミスのエースというのは、みんなそれほど異論がなさそう。実際、日販売上ランキングを見ても、初期の大物招聘作品を除けば、20位以内に入っているのは「GOSICK」だけ。何回か「ファンタジアバトルロイヤル」の表紙にもなっているし、当たり前と言えば当たり前か。


んでも、「GOSICK」には不安要因がちょっとあって。それは、今年に入ってまだ1冊しか単行本が出ていないということ。公式サイトの記述によると、次の長編6巻の刊行は今年〜来年冬だそうで。もっとも、これは桜庭一樹の筆が遅い、というわけではありません。桜庭一樹名義での刊行は、今年4冊目(内1冊は日記集だけど)。むしろ結構早い方だと言えるでしょう。んじゃあなんで「GOSICK」があまり出ていないのかというと、一般文芸の方で忙しかったから、というのはあまり疑いようのないところだと思います。


富士見が新人賞システムを確立して以来、作家はレーベルのお抱えで、売れてる最中はそのシリーズを最優先させる、ってのがライトノベル業界では最近までわりと当たり前だったような気がします。「○○先生の作品が読めるのはジャンプだけ!」っていうアレです。今だと「シャナ」とか「マリみて」とかがそうですね。アニメ化人気に合わせて、ペースを落とさず(むしろ上げて?)新刊を出している。外部レーベルで仕事をするにしても、アニメ化なりなんなりの展開が少し落ち着いてからで、それまでは人気シリーズに腰を据えて頑張ってくれ、とそういう傾向が強かった。しかし、最近は色々とレーベルが増えて、そういう縛りが多少緩くなったように思います。


例えば、(いい加減もう読んでないものを例えに出すのもどうかと思いつつ)「涼宮ハルヒ」の谷川流。2003年6月にシリーズ開始してすぐに「ザ・スニーカー」での連載も始まりました。この3年で刊行された単行本は8冊。アニメ開始時点では7冊。3年で8冊、というのは決して遅いとは言いませんが、昨今早まりつつある一方のこの業界の刊行ペース、スニーカーの看板ということを鑑みると、決して早くはない。ハルヒの表紙に惹かれて「ザ・スニーカー」を買ってみたら載ってなくて絶望した!という声も聞きます。一方、電撃文庫での同作者の作品は4シリーズ11冊。これがどういう意図の下にあるのか、ということに対する答えを出すことはここではしませんが(作品の質を保つために云々、とか)、これまでとはなんとなく違った様相を呈している、という気はします。


翻って、桜庭一樹。こちらは既にライトノベル業界だけで云々、という話ですらありません。PNを変える前も含めて今まで仕事したレーベル・出版社を見ると、ライトノベルでは旧集英社スーパーファンタジー文庫、旧エニックスEXノベルス、角川スニーカー文庫エンターブレインファミ通文庫、そして富士見ミステリー文庫ライトノベル外では角川書店早川書房東京創元社、新潮社、文藝春秋、光文社……ざっと挙げてみましたが、大体こんな感じです。他にも「STUDIO VOICE」とかでライターしてたり。そして、日記での記述を見る限り、売上も悪くはなさそうです。となると、一般文芸での仕事がこれから急に途切れる、ということは考えにくいでしょう。


この状況を富士ミスの人はどう思ってるのでしょうか。同じライトノベル業界内なら、まだ読者がついてくるパターンもあるでしょう。しかし、一般文芸経由で来た人が「GOSICK」の読者になるかというと、ちょっと疑問なのですね。書き方とかも、明らかに意識して変えてる感じだし。同じ角川書店内部で出してる分にはまだいいかもしれないけど、完全に別の出版社で、となるとううむ、という感じで。


何が言いたいのかというと、桜庭一樹の身体は既に(というか最初から)、富士ミスだけのものではない、ってことです。でも、富士ミスくらいの規模のレーベルだと、エースにはもっとガンガン書いてほしい、というのが本音なんじゃないかなあと。アニメ化するなら当然打ち合わせなりなんなりあるだろうし、それに合わせて新刊とかもどしどし出してウハウハ儲けたいだろうし。「GOSICK」のアニメ化に関しては、現在そこらへんの調整中なんじゃないかなーと、素人考えしてみます。


……いや、まあこのシリーズより刊行ペースが遅くてアニメ化した例とか、幾らでもあるとは思いますけどね。