恋の記録-memoire d'amour-/岩里祐穂/マガジンハウス

恋の記録―memoire d’amour


アニメ作品でも頻繁に名前を見かける作詞家・岩里祐穂。私の中では、菅野よう子と組んでの仕事、特に坂本真綾に詞を提供しているという認識が強い人です。これは今から10年前に書かれた、彼女の小説家としての初にして、現時点で多分唯一の仕事。


上記のような仕事のイメージを引きずっていたので、女の情念がどろどろと渦巻くような内容に驚きました。詳しくはこちらに書いてあるんですが、この小説は、彼女自身が作詞した坂本真綾の「DIVE」と繋がりを持っているように思えます。同じテーマを音楽と小説、それぞれ別のメディアで表現していると言ってもいいでしょう。にも関わらず、私が二つの作品から受けた印象は、全く逆でした。一言で言って、この小説には、「DIVE」にあった海底の透明感みたいなものが全然ないんですよ。それどころか、泥の中を漂っているようにさえ思えてしまいます。これは、どっちが善いとか悪いというより、坂本真綾の歌声と岩里祐穂の筆致、あるいはまだ思春期真っ盛りだった坂本真綾と、一回り以上離れている小説の主人公の違いかもしれません。というか、元々は流されるままに男をとっかえひっかえする三十路女の心情だったものを、高校生に歌わせるというのも、凄いことのような気もしますが……いずれにしろ、興味深い体験でした。しかし、こういう小説は感想書くの小っ恥ずかしいですね。普段からそうだけど、自分の経験を顧みて、全く見当外れなこと言ってるんじゃないかと怖くなります。


小説としては、なんだか妙に語り口が説明的で、あんまり行間を読む余地がないような気もしましたが、これは気のせいかな。それとも、本職の小説家じゃないからかな。