桜庭一樹日記 BLACK AND WHITE/桜庭一樹/富士見書房

桜庭一樹日記 BLACK AND WHITE


多分傍からみたら相当キモいこと書くよ。


普段この人の作品に関してはわりとべた褒め気味な私ですが、周囲の評価が高いことにどうしても納得がいかなかったことが一つあります。それは、あとがき。「GOSICK」のそれは、一部では本編より面白いと評判でしたが、私はちょっと苦手でした。「!!」を多用することから始まり、どうも無闇に高いテンションについていくのに大変だったし、なにやら自分のキャラづけに必死になっているような感じが肌に合わなかったからです。桜庭一樹です。こんな名前ですが女の人です。と妙に女性あることを強調するところもネカマっぽくて微妙でした。そのため、同じく砕けた文章で書かれているWEB日記も、読んでいませんでした。


見直すきっかけになったのは、「ブルースカイ」のあとがき。それまでの砕けた感じから一転した、落ち着いた「大人」の文章。綴られるのは、幼い頃の作者と父親の思い出。娘に自分の専門分野のことを嬉しそうに話す学者の父親。理解することは難しいけれど、目を輝かせて聞く娘。お父さんが娘に馬鹿にされることも多い昨今、なんとも心暖まるエピソードじゃないですか。その時、「ああ、この人はTPOに合わせてるだけなんだな」と気付き、そして、WEB日記や「GOSICK」など他の著作のあとがきとのギャップに撃ち抜かれました。


実は、この日記本を買うのは最初躊躇していました。前述の通り、砕けた文章に対する苦手意識はまだ消えていなかったからです。結果的には、近所の書店で作品フェアをやっていることが購入を後押ししてくれたわけですが……。ところが、読んでみたらこれが結構面白かった。あとがきと違って書きたいときに書けばいいので、いい具合に肩の力が抜けているということもあるでしょう。ですが、やはり「ブルースカイ」で、「荒野の恋」であんな文章を書いていた人が……というギャップが、自分の中で変な具合に作用してしまったのが、大きいと思います。今、過去の著作を読み返してみたら、初めて読んだ時と違い、楽しく読めました。ギャップを外側に見せて自分をアピールするのが、桜庭一樹はとてもうまい。この日記の中ではプレゼンテーションが苦手と言っていましたが、とんでもない。自分を売り込むのがとてもうまい人だと、勝手に想像してます。意識的にやっていることだったら尊敬するし、無意識だとしたらこれほど凶悪なことはありません。


そして、そのギャップを作る才能は、神林長平「小指の先の天使」の解説で、ある意味完成されたところまで行ってしまいました。帯を見たその時、八木さんじゃないけど電流が走りました。



鬱屈した中学生時代。ヘルメットをかぶって自転車通学。有機肥料の酸っぱい匂い。ダンプカーでぺったんこになった牛糞。神林、神林、神林。そしてふと我に返る瞬間。……あーっ、もう!なんなんだこれ。読んでるこっちが恥ずかしいよ。悶え死ぬよ。ライトノベル界の女王っていうかむしろファム・ファタールだよ。作者・桜庭一樹と共に、自分がこんなにもミーハーだったんだ、ということにも気付かされる解説でした。


まあなんだかんだで、惚れた弱み、というのがこの手の本の面白さですよね。WEBで読むのとはまた違った味わいがあるので、ファンの方は是非どうぞ。

さらっと書いてるけど、少しよそ行きなせいか丁寧になってる女性の文章が好きってことです。


http://d.hatena.ne.jp/architect/20060320/p2より

……そういえば、中村うさぎが書いてる帯のことについて先日ちょいちょいと話したけれど、「桜庭一樹」名義の処女作「AD2015隔離都市 ロンリネス・ガーディアン」の解説からしてこの人だったということを思い出しました。