ズッコケ中年三人組/那須正幹/ポプラ社

megyumi2005-12-24

ズッコケ中年三人組


インターネットニュースで粗筋を見て、居ても立ってもいられなくなり買ってきてしまいました。実に十数年ぶりの再会。去年、50作品目で完結のニュースを知ってから読み直そうとは思ったんですが、私の年齢的に、児童文学を買う、というのは下手をするとライトノベルよりも抵抗が強く(ハードカバーだし、50作品も出てるし)、一般書として発売される今回の作品を待つこととなりました。なんのことはない、私も本をパッケージングで忌避する1人だったわけだと気付かされました。


一般書としての刊行に当たっての変更は、本文に挿絵がないことくらい。あとは、ミドリ市の地図と一緒に三人組の人物紹介が載っているページも、花山第二小学校六年一組の教室を那須先生と故前川先生が見守っているページも、昔のままです。文字・行数も多分同じ。カバー裏に載っている、シリーズ全50巻分の表紙も嬉しいサービスですね。


さて。小学校を卒業してもうすぐ30年。40歳を迎える三人組は、紆余曲折を経て花山町にいた。ハチベエはコンビニの雇われ店長で、スナックのママにお熱を上げる日々。モーちゃんは勤め先が倒産して、レンタルビデオ店でアルバイトをしているが、同居している嫁姑の仲がうまくいかない。ハカセは中学校の教師をやっているけれど、担任しているクラスは学級崩壊で管理能力を問われている。不況もあって世間の風当たりは冷たい。そんな中、昔三人組とやりあった怪盗が挑戦を挑んできた……というのが、今回の粗筋です。


……序盤30ページまでは、本当に辛かった。キャラへの思い入れも強いし、十数年の歳月が思い出を美化してるし。何より、三人組の未来を描いた作品としては、「ズッコケ三人組の未来報告」というものがあって(夢オチだけど)、そこではモーちゃんは金髪美人妻と結婚してホテルマン、ハカセは考古学者と、結構幸せそうな未来を送っていたので、なおさらそちらとのギャップが辛かった。ハチベエがお熱を上げてるママといかにホテルにしけこもうかというくだりは割とコメディタッチなんだけど、バイト先でのモーちゃんと同僚大学生との、年齢と地位のギャップに戸惑っている関係なんかは、地味に効きました。ハカセは、子供の頃からの夢として大学の研究室に残りたかったけど、枠がなくて仕方なく教師になった、というのは知識はあるけどそれが成績に結びつかないという設定だった彼らしいかも。


中盤は、怪盗Xの挑戦に対し、自分たちの原罪の社会的地位や家族のことを鑑みて、もう昔のように無茶は出来ないと悩む三人の姿が、ベタだけれどよかった。思えば、小学校時代この三人は……というかこのシリーズは、子供の身で大人と同程度、もしくはそれ以上のことをいかにやってのけるということを命題としていたように思います。そんな彼らが大人となった時にどう行動するのか、それが今回のテーマなのでしょう。1人だけ独身の博士が、クラスのアイドルだった新井陽子に再会して励まされるくだりが、今回一番盛り上がったシーンかな。ポジション的にも、今回の主役はハカセと言っていいかも。


結局、終盤、三人は忙しい仕事の合間を縫ってXと対決します。前述の問題については、まあご都合主義でスルー。序盤に見せた中年男の哀愁漂う姿から、昔のような生き生きとした姿へ。ハチベエは幾分大人になってハカセと議論できるような論理力や常識を身につけた反面、昔みたいなアクションを演じるポジションには、もういられません。それが、どれだけ精神的に奮っても体がついてこないことを暗に示しているように感じられます。ですが、少なくとも表面上は、Xと昔のように対決しました。もう少し序盤からの流れを重視して、中年三人組としての葛藤を描いて欲しいという人もいれば、昔通りでよかったという人も居ます。


私はと言えば、せっかくこういう衝撃的な設定を作ったんだから、ということで前者寄り。というかそもそも個人的なことを持ち出せば、今回の敵役である怪盗Xというキャラクターが出てきたのは、私が読まなくなった頃でして。これは挿絵の前川先生が亡くなった頃とも一致しているんですが、作品の方向性が微妙に変更していた時期でもあり、まあとにかく、思い入れという点において微妙なキャラクターなんですね。ズッコケとしては初めての連作シリーズということで、まあ登場するのはそうおかしくはないと思うのですが……そういうわけで敵役との対決が盛り上がらなかったので、せめて人間模様の方を盛り上げて欲しかったなあ、というのが素直なところです。


とはいっても、Xとの戦いに昔の作品に出てきた思わぬキャラが絡んできたり、ファンサービスは結構ありましたよ。終わり方もそう悲観的にならず、希望を持たせたものになっていたし。うん、読んでよかった。