さむけ/ロス・マクドナルド 小笠原豊樹訳/ハヤカワミステリ文庫

megyumi2005-12-16

さむけ (ハヤカワ・ミステリ文庫 8-4)


私立探偵・アーチャーは、新婚旅行中に失踪してしまった花嫁の捜索を、花婿に依頼される。手がかりを追っていくと、数多くの秘密を抱えていたその女は、とある大学に通っていたことが判明した。ほどなく彼女と会うことが出来たが、妻は夫の元に帰るつもりがないと言う。数日後、血塗れの両手をふりかざし、人を殺したと言って狂乱する彼女の姿があった。


昔、某作家がドラゴンマガジンかなんかで紹介してたことから興味を持ちました。ハードボイルドの大家、らしいです。ハードボイルドについては造詣が獄薄なんですが、語りが一人称なのに、主人公の主観的な感情描写が、徹底して排除されてるなあという気はしました。そのためか、さくさく行動はするんだけど、その一つ一つの意義が希薄で、ロボットみたい。その分、時折見せる情と人を評する時に見せるシニカルな口ぶりが映える。鏡みたいな主人公でした。


ストーリーは、主人公が判明する関係者に次から次へと事情説明を迫って、複雑に絡み合った人間関係の糸を解いていく、というのが大まかな流れ。複雑すぎて、誰が誰だか分からなくなることもしばしばありました。背景としては昼メロっぽい湿っぽい愛憎劇の側面が非常に強いんだけど、それを感じさせないのは語り口が乾いてるからか。驚くようなトリックとかはほとんどなし。


最初に挙げた某作家に与えた影響については、どうだろう。言葉遊びも入った人生の格言めいた文章がやたら多いところは似ているけど、こっちは基本的にすらすら読める簡潔な文章だからなあ。あの、人によっては悪文ともとる、回りくどい文体とは違うような。氏はよく「翻訳調の硬い文章」などと称されるけど、いかんせん翻訳ものを読んだ経験が少ないので、本作が翻訳超なのかどうかも分かりません。


「レティシャ・マクレディ」とか「コンスタンス・マギー」とか、そういう名前の登場人物にニヤニヤしたい人は読めばいいじゃない。前者は、ちゃんと愛称がティッシでした。