少女には向かない職業/桜庭一樹/東京創元社ミステリ・フロンティア

少女には向かない職業 (ミステリ・フロンティア)


死んだ魚でレスリング……いやなんでもないです忘れてください。


大西葵は、田舎の港町に住む中学生。母親と、漁師だったけど足を怪我してから仕事せず、酒ばかり呑んでいる義父と3人で暮らしている。夏休み、網元の孫で一風変わった女の子、宮ノ下静香と仲良くなってから何かが変わっていく。それから冬までに、彼女は人を二人殺すことになる。


カバーに曰く「初の一般向け作品」らしいけれど、レーベルが変わったこと、挿絵がないことを除けば「推定少女」「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」に連なる、いつもの青春物で安心半分残念半分、といったところ。「思春期の女の子」「田舎町」とモチーフは変わらないのに飽きが来ないのはなんででしょう。


この話の主人公、大西葵は学校では明るい性格で、普段から友達を笑わせたり、基本的には仲間と楽しくやってます。でも、ふとした一言でその雰囲気が悪くなって、そんな時、彼女はじっと黙って嵐が過ぎ去るのを待つだけだったり。家に帰ったら帰ったで、四六時中不機嫌な母親の前では黙ってて、無愛想な子だと思われていたり。一人になるとむしゃくしゃして山羊に八つ当たりしたり。そういう、いつ壊れるか分からないような不安定な場の雰囲気を描写するのがうまいなあ、と思いました。地に足がついてない、というか。常にふわふわしてるイメージがこの人の作品にはある気がします。そこが好き。


オタクとか、引きこもりとか、ドメスティックバイオレンスとか社会的なネタを作品に仕込むのもこの人の特徴ですが、今回は「ゲーム」が結構話の鍵になってたのかなあ。友達との共通言語になっていたゲームのセーブデータを無理解な親に消されて、怒って、でも親は「たかがゲームくらいで」なんて言ってて……そういう経験、思い当たる人もいるんじゃないでしょうか。女の子とバトルアックス、なんて現実感のまるでない組み合わせにも度肝を抜かれました。


ところで、今年春に出てた「このライトノベル作家がすごい!」のインタビューによると、この人は「GOSICK」シリーズ以外にこういう路線を7本書きたいと言ってました。

ここまでは刊行されてて、来月ハヤカワから出る「ブルースカイ」で5本。そしてこのインタビューで夏に富士見から出ると言われてた「ぼくのクドリャフカへ」で6本。あと1本はどこから出るんでしょうねー。いや、「GOSICK」も「荒野の恋」の続きもあるし、ゆっくり書いてほしいところです。


しかし、文庫の3倍近い値段を出してるのに、なんか紙質が……ソフトカバーって、なんか中途半端な印象。