蕎麦ときしめん/清水義範/講談社文庫

蕎麦ときしめん (講談社文庫)


20年前、パスティーシュなる文体模倣技術をもって書かれた短篇集。


表題作「蕎麦ときしめん」は、名古屋が馬鹿にされてる気がするわはー的な荒唐無稽な論文を作者が紹介する、という内容。地方ネタは普遍的なものではあるけれど、その面白さをうまく小説にしているなあ、と感じました。「日本人は、他国の人が書いた批判的な日本人評を喜んで読みたがる」という指摘にも頷かされます。その続編「きしめんの逆襲」は、「蕎麦ときしめん」で名古屋を馬鹿にしていると誤解された作者が騒動に巻き込まれる。ここら辺の話の広げ方もうまいなあ。パロディを書いた自分をさらにパロディにする、というか。ここに書かれてることが現実か創作か分からなくなってくる感覚が気持ち悪くて気持ちいい。


「序文」は、言語学について一部の英語は日本語を元にしている、というトンデモ理論を発表した作者が、初版、改訂版、著者全作集、文庫版といった形で版を重ねていく著書の序文「だけ」を淡々と書き連ねていく。何十年をかけた作者の心理的な変化や、学会での学説の扱われ方の変遷なんかが、作者の凝り固まった視点からのみ描写されてる様子が面白かったです。


特に印象深かったのはこの3作かな。知性とユーモアが同居しているという感じでした。いやーこういうのが書ける人は羨ましい。