LAST KISS/佐藤ケイ/電撃文庫

LAST KISS (電撃文庫)


なんだろう画像のこの暗さは。


夏休みが始まり、主人公は病院に妹を迎えに行く。長らく病気を患っていたが、その日ようやく退院することになった妹だ。長く離れていたことで最初はぎこちなかった2人の関係だが、ひと夏を一緒に過ごすうちに打ち解けていく。


「病気ネタは勘弁してくれぬか」by殷雷。いや、特に意味はないですが。ともかく、ストレートな病気モノでした。義理の妹・病弱・日記。最初の2つはともかく、3つ目が加わると明らかに「加奈」のパロディにしか見えない。いや、こういう系統の話ならよく見かけるやり方なのかもしれませんけどね。でも、作者が普段頻繁にその方面に言及してるのを見ると、「知らない」というのはちょっと無理あるんじゃないかなあ。ま、ここら辺は散々語り尽くされてるでしょうが。むしろこの小説はやっぱり、そういうメタメタな視点を楽しむものだ、という妄想。


というのも、この作品は主人公の一人称で語られます。冒頭、いきなり現状への愚痴から始まる文章。その後も彼は無口な妹を苦手とし、その世話を面倒くさがりながら、なんだかんだで妹との溝を埋めていきます。その中で段々と妹への愛情を深めていくのですが、どこかその病状に対して真剣になりきれない一面は残る。ある朝、起きたら自分の顔に吐血していた妹に、主人公は最初「汚ぁコイツ、何しよんねん……」と胸中毒づくのですが、すぐに「文句言うてる場合ちゃう」と気を取り直し、病院に連れて行きます。


こういう心理描写は、作中に何回か登場します。関西弁を使ってるせいもあってか結構軽くなっちゃって、いまいち緊迫感が足りないという人もいます。が、私としてはいつまで経っても、妹の状態に実感を持てない主人公をよく描写できてると思いました。あえてリアルと言っても構いません。


ただ一方で、非常にゲーム的な一面もあって。なんというか、妹との距離を縮めていく過程が、なんかエロゲーのキャラを攻略してくみたいなんですよ。主人公の思考回路が妹との付き合いをゲームとして捉えてるというか。現実の人間関係だってそんなもんだと言われればそれまでなんですが。


そして実際、主人公はそういう思考をする人物、すなわちオタクです。1章にこんなシーンがあります。

俺は足取りも軽くあにめい都に向かった。そして、漫画コーナーに由香を置いてくると、自分はパソゲー関連グッズを見て回る。とりあえず、まずは『踏破痕』のトレカか。そういや今度プレ捨てに移植するらしいな。フルボイスで。でも俺の好きなキャラは基本的に無言で喋らへんから、あんま関係ないか。一応買うけどな……。

当て字が痛いとか、無口キャラだからこそたまに喋る声が重要なんだろ佐藤ケイなにも分かってねえよボケェとか色々言いたいことはありますが、とりあえずそれは置いといて。他にも、やっぱ「現実で無口系のキャラはあかんよ」などといった発言も見られます。


あとがきによると、主人公のモデルは作者の友人である無口病弱妹キャラ好きらしいです。つまり、これは泣きゲー好きが実際に泣きゲーの舞台に放り込まれたらどうなるか、という実験作だったのではないか……というのは、実はあとがき読めば理解できるんですけどね。


そうそう、最後の一行は不要。ああいうことがあっても人生は続いていく、みたいなノリなんだろうけど、にしてもあれは軽くなり過ぎ。


・他の人の感想
http://d.hatena.ne.jp/matunami/20040821