虎よ、虎よ!/アルフレッド・ベスター 中田耕治訳/ハヤカワ文庫SF

虎よ、虎よ! (ハヤカワ文庫SF)


既にこの日記でも何度か言及しましたが、「モンテ・クリスト伯」を下敷きにしたSF復讐劇。日本語訳の初版が1978年、原書がアメリカで発行されたのは56年。元々アニメ「巌窟王」の前田真宏監督はこっちをアニメ化したかったらしいけど、版権の問題で駄目になり、「モンテ・クリスト伯」アニメ化の話が持ち上がったらしい。アニメの舞台設定が未来なのは、その名残ですかね。……ロボは出てこなかったけど。


ジョウントと呼ばれる瞬間移動技術を誰もが日常的に使えるようになった時代。主人公である船乗り、ガリヴァー・フォイルの乗っていた宇宙船はある日、敵の攻撃を受けた。たった一人生き残ったフォイルだが、宇宙船は彼にはどうしようもできない状態で、救助を呼ぶ手段も考えつかなかった。六ヶ月間、船に残された食糧と空気でなんとか耐え忍んだ後、近くを一隻の船が通りかかる。が、その船は明らかにフォイルの救難信号を発見していたにも関わらず、彼を見殺しにして行ってしまう。その日から、彼の復讐が始まった。


……これは最早、下敷きにした作品とは全くの別物でした。少なくとも「モンテ・クリスト伯」とこの作品、何も知らない状態で読まされたらその相関関係に気付くことなんて絶対ない。とにかく主人公のキャラが強烈。智略で復讐の対象を追い詰めていくモンテ・クリスト伯とは正反対で、とことん肉体派。頭は空っぽ。当初は「人間失格」と呼ばれるほどの怠惰な人間だった彼が、復讐にとり憑かれることで変わっていく。……んだけど、基本的に考えが足りないところは変わらないので、復讐するにも力任せで、無軌道で、無茶苦茶。とてもバイオレンス。先が読めない展開、というのは確かにその通りなんだけど最初はかなり戸惑いました。「え?なんでこうなるわけ?」という展開が続いて、なかなか読み進められない。んでも、そんな私を引っ張ってくれるだけのパワーはありました。特に終盤は色々凄い。話の構成としては凄い歪なんだけど、下手すれば振り落とされそうになる。一見の価値あり。


これ、訳した人は大変だったろうなあ……原書版の方も見てみたい。そして前田監督がこっちをアニメ化したかった、というのも分からなくもないけど、これやったら今の「巌窟王」のような評価は得られなかっただろうな。良くも悪くも。