荒野の恋 第一部 catch the tail/桜庭一樹/ファミ通文庫

荒野の恋〈第1部〉catch the tail (ファミ通文庫)


12歳の山野内荒野は、恋愛小説家で女ったらしの父親と若い家政婦と、3人で暮らしていた。中学の入学式当日、電車の扉にセーラーが引っかかって困っているところを、ある男の子に助けてもらう。彼は同じ中学、同じクラスの生徒で神無月悠也といった。そこから、物語は始まる。


私が現在イチオシ中の作家、桜庭一樹の新シリーズ。予定としては3部作の第1弾らしい。……このシリーズの立ち上げに際して、その路線が「推定処女」「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」と同じ思春期の女の子の話であると聞いて、正直最初は少し不安でした。「確かにこの人の思春期モノは面白いけど、受けたからってそんなポンポン同じ路線ばかり出して読者が飽きないかな?」と思ったからです。


いやはや、杞憂もいいとこでした。「砂糖菓子」の、抜き身の剣のような鋭さや目新しさはない、もう直球ど真ん中の思春期モノなんだけど、比較的量を抑えた短いセンテンスが並んでてて、この人の武器である雰囲気作りの巧さがすげー際立ってる。ナプキンだの、膨らんできた胸だの、初めての下着だの、23歳のキモオタが単語だけ口にすると凄いアレだけど、そういうところに下品なものを感じさせないのは流石。ここに来て、また一つ新しいものを見せてくれました。一つの長期シリーズものだけが代表作、って人が多そうなラノベ作家としては稀有なケースじゃないでしょうか。どこまでいくんだ桜庭一樹。他のシリーズはなかなかアンバランスなところもあって人には薦めにくかったけど、これはオススメ。ただ、「ないしょのつぼみ」的なものを期待して買うと、失敗するかもしれません。基本的に淡々と進むから。恥ずかしさに身悶えてゴロゴロ転がりまわる、といった感じではなかった。


あと、まあ褒めてばっかりもアレなんで幾つか欠点を。主人公以外のキャラの心情が少々分かりにくい、というところはあるかも。基本的に主人公の一人称視点だし、あえて削ったのかもしれないけど、主人公の親友、江理華の話とかああ来るとは思いませんでした。意表を突かれた、と言えなくもないけどちょっと納得し難い。。あそこはもうちょっと描写してもよかったんじゃないかな。続き物なんで次巻で語られることもありうるかもしれないけど、あとがき見るとこの巻から作中の時間が飛んでそうなんだよなー。あと、ラストであの子がああういう行動に至った経緯とか。


あ、そういや荒野の父親、フルバのぐれさんを連想したのは私だけじゃないはず。


・他の人の感想
http://d.hatena.ne.jp/thebomb/20050529
http://d.hatena.ne.jp/Wanderer/20050526