イリヤの空、UFOの夏#3「十八時四十七分三十二秒」

イリヤの空、UFOの夏 3 [DVD]


文化祭、運動会、縁日などなど、普通の人は何の疑問もなく楽しんでるハレの日。病気か仕事か、個人的な事情で楽しみにしていたイベントに参加できない可哀想なヒロイン。そういうシチュエーションに感情移入の度合いを高める過程。少なくとも原作のダイジェストにすらなってない1、2巻に比べれば、ずっと演出にメリハリがきいてて面白かった。


私はこれの原作(というか作者)に関しては割と自分のことを信者だと認識してますが、それでも話の筋自体はそんな特筆すべきものじゃないと思ってます。簡単に説明するなら、それこそ「エヴァでサイカノ」で済むでしょう。その話を他の作品と差別化しているのは、これでもかというくらいに畳み掛けてくる文章です。描写するところはとことん描写し、こそげ落とすところはギリギリまでこそげ落とす。少なくとも、これで私は引き込まれました。だから、原作の文章に対する映像的な面白さを追求すべきだったのに、アニメ版1、2巻はそれがなかった。これは作画的なクオリティがどうこうじゃなくて、もっと面白い見せ方があったんじゃないかなあと。端折り過ぎ、という人もいますが話の流れに関してはそんなに問題はなかった。むしろもっと削れるところがあったんじゃないか、と思ってるくらいです。悪い意味で原作に忠実だからひどく退屈で、どこが見せ場なのか分からなかった。


3巻を見れば、はっきり言えば時間と予算が足りてないのが分かります。キャラを動かす代わりに部屋の中に置かれてるビーカーやフラスコ、ジオラマなんかの静止物を写していって、その上から台詞を被らせる。止め絵の連続で話が進む様子は、最近だと月詠を彷彿とさせます。ところがラストの見せ場に入るとこれが一転。狭く息苦しく感じられた画面は一気に広がり、それまでの止め絵が嘘のように動きまくる。これだよこれ。こういう、見せ場に向かって収束してく感じが欲しかったんだよ。


ただ、こういう演出は一長一短。ラストを引き立たせるためとは言え、画面を暗くしてみたりなんだりで原作の馬鹿騒ぎ感は失われ、文化祭がなんかえらくエスニックで怪しげな雰囲気になってたのは残念。「いんもーっ!」とかモラトリアムを著しく喚起される描写があるからこそ、終盤の突き落としも効いてくるんですけどね。あと、読んでてすげえニヤニヤした浅羽夫婦のイチャイチャもほとんどなかったけど、これは我慢します。