なんとなくメモ

すなわちまず、これを積極方面より例示せむか。飽くなき事なき異性の愛撫欲が極度に高潮辛辣化すれば平凡なる性交の満足に膿みて、異性の虐待、乃至、虐殺の快適味愛好(サジヒズム)又は屍好(ネクロヒリ)となり、更に進んで異性の肉体覗見、異性の形状愛好(ピクマリオニスムス)、異性の附属物耽美(フェチシスムス)等の順序を以って漸次、異性より直接に受くる刺激、もしくは感覚より背き遠ざかりつつ、却って深刻味ある快感美を受け取るに至るべく、しかも尚、それ以上の異端、もしくは猟奇的深刻味を求めて止まざる結果は、遂に人間本来の自己愛惜の本能に吸引せられて自己恋着に陥り来るに到るべし。
又、これを消極方面より観察する時は、被愛撫的満足の飽くことなき願望が超自然的に高潮すれば被虐待の要望(マゾヒスムス)となり、一転して異性の汚物愛好(コプラロラグニー)に進み、異性よりの侮蔑冷視、嘲笑嫌忌の甘受欲(エキシビステンその他)等の経過を見て結局、前者と同様の結末に陥り来るべきは自然の帰趨なり。所謂NARZISSMUS(自己恋着)はこれにして、筆者の所謂積極消極両様の変態恋愛の交叉帰一点そのものの発露と見るを得べし。

ドグラマグラ/夢野久作より


別にとち狂ったわけじゃないです。ただ、この小説が約70年前に出版されたものということを考えると、半世紀経っても人間の性的嗜好ってそれほど増えるもんじゃないなーと。……いやまあそれだけと言えばそれだけなんですけど。