パンツが見える。 羞恥心の現代史/井上章一/朝日選書

パンツが見える。―羞恥心の現代史 (朝日選書)


今の男性はパンツが見えると喜び、女性は見られると恥ずかしがるけど、昔はパンツどころか着物の下に何も履いてなかったから度々陰部すら見えたんだよ、下着が見えることを男性が喜ぶようになったのは色んな経緯があったんだよ、ということを約400ページかけて膨大な文献を引用し解説している一冊。タイトルでひく人も多いと思うけど、作者本人も「せめて、これまでの通説よりは実証的な猥談ではありたいとは、思っているが」と語っているように基本的には真面目で、頭が下がるけど、同時に笑いも誘われます。ああ、こういう大人、「好事家」になりたいなあ。また、この手の本にありがちな自分の理論構築に都合のいい引用にも自覚的で、あんまし持論を押しつけないのも好印象。
ただ、これこれこういう心の動きがあって男はパンツを見ると喜び、女はパンツを見られると喜ぶんだよ、という個人個人の心理みたいのを説明するかと思ってたのに、もっと大きな、日本人全体の集団心理、歴史の流れみたいものから分析してるのはちと残念。それと基本的に文献紹介が1920-70年辺り(特に戦後50年代)に集中しているので、「現代史」と銘打っているのはやや看板に偽りありとかと。あとは基本的に文献引用で言っていること自体は繰り返しという展開に飽きがこないかどうかですが、私としてはあそこまでやられたら(構想十数年……らしい)もう脱帽するしかありませんでした。

羞恥心よありがとう。