ブートレガーズ 神仙酒コンチェルト/あざの耕平/富士見ファンタジア文庫

神仙酒コンチェルト―ブートレガーズ (富士見ファンタジア文庫)

神仙酒コンチェルト―ブートレガーズ (富士見ファンタジア文庫)


舞台は禁酒法時代のシカゴ。一攫千金を狙うお調子者のガンマン・ジョバンニ。組織の金をカジノで使い込んでしまったギャングの敏腕会計士・ギルバート。駄目親父のせいで大量の借金を作ってしまった惣菜屋の娘・フランシス。それぞれの事情を抱えた連中が、密造酒作りにチャレンジする。


再読。ドラゴンマガジンの企画「龍皇杯」への「Dクラッカーズ」掲載後に刊行された、作者の単行本デビュー作。やっぱりこれ好きだなー。まずスピークイージー(モグリの酒場)やら時代遅れのシングルアクションアーミーの二挺拳銃やらT型フォードやらの活き活きとした描写から、作者があの時代、あの場所(実際にはシカゴの中でも架空の街なんだけど)が大好きであることが伝わってくる。早撃ちだけは誰にも負けないけど命中率は極端に低いガンマンと、冷静沈着だけどギャンブルになると正気を失う会計士は、作者が得意とする必要以上にベタベタしない気持ちのいいバディだし、ちょっととぼけた味わいのスラップスティックコメディとしても楽しい。特に洋物の匂いが濃いコメディ部分は、いかにもラノベっぽいコテコテのギャグだった「BBB」の短編など作者の後の作品とは同じようで微妙に違っていて、同じファンタジア大賞出身者である川崎康宏の諸作や、アニメなら「カウボーイビバップ」を髣髴とさせるものがあった。あとはまあ、禁酒法繋がりで「バッカーノ!」もそうか。色々詰め込みすぎてて焦点がぼやけてるという欠点もあるけど、一方で自分はこのごった煮感に惚れたんだとも思わなくもない。


また、今回再読して冒頭の文章にさりげなく「民“盟”書房」の名前が入ってるのに初めて気づいた。こういうところ意外とお茶目。序文に何か仕込むの、デビュー作から好きだったんだなー。