描きかけのラブレター/ヤマグチノボル/富士見ミステリー文庫


再読。『ゼロの使い魔』のヤマグチノボルによる青春小説。氷室冴子海がきこえる』(asin:4198911304)を「面倒くさい女の子とそれに振り回される男子を描いた小説」と定義するならば、男の作者が描いた『海がきこえる』と言えなくもなく。その分、分かり易過ぎるところもあったけど。雑誌掲載の、ヒロイン側から見た短編「side:B」も蛇足だったと思う。主人公=読者から見てヒロインの心情が見えないってのが肝なのに。


あとがきでは富士ミスの編集長に「普通の恋愛小説」をやりたいと力説された、と紹介されてて、なるほど富士ミスの路線ってああなるべくしてなったんだなーと。その言葉通り、作者の他作品のようなコミカルなノリはほとんどなく、淡々とした筆致で主人公とヒロインの不器用なやり取りが描かれている。が、こちらの感想でも触れられている通り、根っこの部分は変わらない。女の子は可愛い。でも面倒くさい。でもやっぱり可愛い。男の子はそれに惹かれる。でも惹かれるだけじゃなく、意地を張らなきゃならない時もある。青春は姦しく、痛々しくて、切ない。……考えてみれば、『海がきこえる』のヒロインはツンデレの元祖(個人的には全然違うと思うけど)、なんて一部で言われてたなあ。ツンデレブームという時代と寝た作者がこういう小説を書く、ってのは何らかの必然だったんだろうか。


また作者はこの後同レーベルで、同傾向の「遠く6マイルの彼女」(asin:4829163410)という作品を執筆。あちらは作者の趣味であるバイクと、「年上の彼女」を絡めた作品で、本作と合わせ「日立三部作」(作品の舞台であり作者の故郷でもある茨城県日立市から)と銘打っているが、3作目はいまだ書かれていない。レーベルが休刊したという事情もあるのだろうけれど、ネクスファンタジア大賞を設立して現代物でも「スノウピー」のような作品を出してる今ならファンタジアでも行けないかな?MFで引き取ってくれても一向に構わないよ!