魔術士オーフェンはぐれ旅 我が神に弓ひけ背約者(上)(下)/秋田禎信/富士見ファンタジア文庫

我が神に弓ひけ背約者〈上〉―魔術士オーフェンはぐれ旅 (富士見ファンタジア文庫)我が神に弓ひけ背約者〈下〉―魔術士オーフェンはぐれ旅 (富士見ファンタジア文庫)


世界の成り立ちとは。神とは一体何なのか。魔法と魔術の関係は。ドラゴン種族はどこから来てどこに消えたか。キムラックが魔術士を根絶しようとする理由は。はぐれ旅と無謀編とプレ編の関係は。魔術を使えなくなったオーフェンは如何にしてキリランシェロという過去を克服するのか。アザリーは贖罪を済ませることが出来るのか。増長が止まらないマジクの行方は。チャイルドマンの正体は……。どでかい規模の設定と個人レベルの問題が絡み合い、収束……したのは一瞬のことで、すぐにまた拡散していった。が、だからこそその一瞬にすげえカタルシスを覚えた。


このキムラック編はシリーズ中でも特に魅力的なゲストキャラが多い。飄々とした老人のように見えて、自分とクオの現状の差に思わず拳を握りしめてしまうオレイル。薬物で極限まで高められた身体能力より、どちらかというとひもに括りつけられた刃とかいう素敵武器と草河イラストの形相でオーフェンを追いつめたネイム・オンリー。ベッドに寝た状態から、足でつまんだナイフでもってメッチェンの戦闘能力を奪った妖怪女カーロッタ・マウセン。バットをへし折る筋肉を持ちながら学者馬鹿で、現状では絶対に十三使徒に勝てないと分析する冷静な判断力を持ちながら、V2ガンダムみたいな羽を生やす鎧がプリティーなクオ・ヴァディス・パテル。ザ・お兄ちゃんラポワント・ソリュード。そして後日談で衝撃の事実が明かされたみんな大好き教主様。彼らが一人一人オーフェンに挑んできたり、といった風に無理に見せ場を作ろうとしないのがいい。ポジション的にラスボスではないかと目されていた教主様ですら、地人と一緒に無謀編時空に巻き込まれ吹っ飛ばされる有様。彼らは、オーフェンが成長するための踏み台などでは決してなく、それぞれが好き勝手に生きている。そして、事態が一応収拾された後もキムラックは続いていく。基本的にはオーフェンという青年を主人公としていながら、それ以外の人たちも蔑ろにしない。そういうところがどうしようもなく好き。


大枠の世界設定は、大体ここまでで披露終了。世界と神々の関係は「火の粉」から継続しているテーマ。神に見放された箱庭世界というのは、90年代大層流行ったモチーフの一つ。東部編は、一個人がこの世界でどう生きるか、といったような話になってくる。実はこの巻のクリーオウの「誰も、来るなと言われなければいちいち来たりしないわよ、きっと」で答えの一つは出てるんだけどね。というかクリーオウはシリーズ開始当初からこのスタンスだけど。

  • 魔術の構成とは「構文」で出来ているらしい。
  • 「我は生む小さき精霊」の光量と持続時間が反比例するって設定は音声魔術としてどうなんだろう。『スレイヤーズ』のライティングもそうだったけど。
  • 「五年前とは全部変わってしまった」という舌の根も乾かぬ内から「でもそれに近いものは作れる」と言い出すオーフェンが大好きです。