国語入試問題必勝法/清水義範/講談社文庫

国語入試問題必勝法 (講談社文庫)


短編集。吉川英治文学新人賞を受賞した表題作もなかなか面白かったんだけど、『靄の中の終章』のインパクトが凄かった。ボケ老人の一人称視点から綴られる話で、自分では頭も体もまだまだ衰えてないと思い込んでいるんだけど、同居している息子の嫁さんに何度も朝ごはんを要求して困らせ、「おじいちゃんさっきもう食べたでしょ」と子どもをあやすような調子で言われ、恥ずかしい思いをする。でも次の瞬間には忘れていて、また朝ごはんを要求する。老人会のお仲間のことを忘れ、息子の嫁のことを忘れ、次第には死んだ妻と嫁さんのことを混同するようになり、といった風に呆けは進行し、やがて……。そんな過程をねちっこく、覚えていること、忘れていることを少しずつずらして描写してみせる。「ご飯まだかいのう」「さっき食べたばかりでしょ」ってのは最初お笑い要素なのかな、と思ったけど読み進めてく内、次第にそら恐ろしく、物悲しくなってくる。事あるごとに、同年代の呆けてしまった人間を嘲って、自分はそうじゃないんだ!と思い込もうとする様子は痛々しくて、作者には何かこういった事柄に含むところがあるのか、とさえ思った。