さらば愛しき大久保町/田中哲弥/電撃文庫

さらば愛しき大久保町 (ハヤカワ文庫 JA タ 9-5)


読んだのは旧電撃版。今月出るのは画像の(まだ表示されてないけど)新装ハヤカワ版。


大久保町3部作完結編。思い返してみると、不思議な作風だったなあ。一言で言うと、良くも悪くも口汚いんだよこの人。とにかく容赦なく自分で出したキャラクターを罵倒する。馬鹿アホドジとんまくらいはデフォルトで、ひどいのはもっとひどい。大抵の場合、そこに悪意は全く感じられず(少なくとも『大久保町』は)、一種の愛情表現だということは明瞭なので、ゲラゲラ笑って読んでられるんだけど、時には過剰で、引くこともある。吉本興業の台本作家だったというのも納得。いやお笑いには詳しくないけど。でも、その一方で、ちょっととぼけた少年-青年と可愛い女の子による、素朴で微笑ましいラブコメもあって。なんかこの二つが結びつかなかった。


この巻ではその傾向が特に顕著で、主人公の左右には二人の対照的な女性がいる。一人は異国から来た王女様。主人公同様ちょっととぼけてるけど、可愛くて、気立てもよくて、いつもにこにこ笑ってる、いい娘。主人公に惹かれてく過程も、今時(つっても10年以上前の小説ですけど)こんなのあるか!というような、いい意味でギャルゲ―ちっくな感じ。


もう一人は対照的に、とにかく悪し様に描かれている。見た目があんまりよろしくない(婉曲的表現。多分彼女を形容するのに一番使われてる単語は"牛")、性格ははっきり言って悪い、主人公が穏やかな性格であることにつけこんで、いいように使い倒す、アクションの時には足を引っ張る、他の登場人物ほぼ全員から、邪魔物として扱われている。そして、その扱いは最後まで変わることがない。一応ポジションとしては狂言回しに当たるんだけど、いくらライトノベルにおいてかわいいは正義でそれ以外の女の子の存在する余地がないとはいえ、何もここまでやらんでも。


でも、なんていったらいいんだろ……ある種の無邪気さ?という点においては、良くも悪くも口汚い笑いと素朴なラブコメって共通してて、なるほど同じ作者から生まれたなんだなあ、とは思ったよ。


えっと、面白いのは言うに及ばず。