坊っちゃん・こころ/夏目漱石/文春文庫

こころ 坊っちゃん (文春文庫―現代日本文学館)

坊っちゃん

さすが夏目先生、読みやすい。って、これが読み難くて何が読みやすいんだ、という話だけど。痛快無比な主人公。正義の味方。勧善懲悪。こういった評判については違和感を表明してる人がいるけど、自分もどっちかというと彼らの肩を持ちたいなあ。つまり、主人公が助けたいと思っていたうらなり君が、結局のところ最期まで彼を敬遠してて、彼のやったことを知って感謝したのかどうか分からない(一人称なんだから当然だけど)っていう一点において、むしろ勧善懲悪とかそういったものを皮肉ってる気がする。やりたいことをやる、自分の信じた道を進むことが痛快だというなら、それは痛快だけどさ。そういった姿勢は必ずしも作中では肯定されてるとは限らないよね。

こころ

要するに私は正直な道を歩くつもりで、つい足をすべらしたばかものでした。もしくは狡猾な男でした。そうしてそこに気のついているものは、今のところただ天と私の心だけだったのです。しかし立ち直って、もう一歩前へ踏み出そうとするには、今すべったことをぜひとも周囲の人に知られなければならない窮境に陥ったのです。私はあくまですべった事を隠したがりました。同時に、どうしても前へ出ずにはいられなかったのです。私はこのあいだにはさまってまた立ちすくみました。