BLACK BLOOD BROTHERS(4) 倫敦舞曲/あざの耕平/富士見ファンタジア文庫

BLACK BLOOD BROTHERS〈4〉ブラック・ブラッド・ブラザーズ 倫敦舞曲 (富士見ファンタジア文庫)


19世紀末、ロンドン。留学中の大日本海軍少尉・望月次郎は、同僚の秋山真之と共に連続殺人事件を捜査することになる。事件の犯人は7年前にもロンドンを騒がせた切り裂きジャックであり、また吸血鬼であるとも言われていた。次郎は捜査を進める内、ロンドンの暗部を垣間見、一人の女性に出会うことになる。


というわけで、ジローの過去編。いやはや、Dクラの時は少々首をひねっていた「あざの耕平スロースターター説」も、ここまで来ると認めざるを得ません。話が広がっていくというのもそうなんですけど、いい具合に肩の力が抜けてキャラがすごく活発に動き出してる、という感じがします。特に次代の日本を引っ張っていこうとする秋山と次郎の語り、生真面目な次郎と奔放なアリスの微笑ましいやり取りはよかった。特に後者。読んでて思わず頬が緩んでしまいました。Dクラも、ドラッグとかヤンキーとか物騒なモチーフを扱ってた割に、しっかりベタベタな恋愛してたし(なんせ数年ぶりに会った幼馴染ですから)。「合い言葉は、L・O・V・E!!」の富士ミス魂は、ファンタジアに移ってもしっかり根付いてるということでしょうか。しかし、アリス予想以上にいいキャラだなー。童心を残した奔放な美女。これ読むと、やっぱりミミコとジローはあくまで親友同士でいて欲しいかも。


今回心に残った場面は、この辺り。

闇と文明の交錯するロンドン。その中でいま、彼女の笑顔だけが真っ直ぐ次郎に訴えかけてきている。彼が身をもって実感できる、確かな何かを。
それを放してはならない、と思った。剣を振り下ろすには、踏み込む必要がある。踏み込むためには足場がいる。ぐらつく足場で、剣は触れないのだ。
いま、次郎はようやく、闇に斬り込む為の足場を得たような気がした。


地味なシーンではあるのですが、拠り所がなかった主人公の心境を的確に表現してるんじゃないかと。ま、この人は見せ場までの「流れ」をすごい大事にする人なんで、台詞だけ抜き出してもしょうがないかなーとは思うのですが。なんというか、きざったらしい文章が全然嫌味にならないんですよね。演出に長けている、というか。そこが売り。


史実や、歴史上に実在した人物とのクロスオーバー、小ネタもストーリーにうまく絡めてました。帝国的資本主義により発達する科学技術と駆逐されていく迷信。変化と停滞。社会的経済的勝者と敗者。そんな感じ。「霧の都の吸血鬼」から暖めてたっぽいだけのことはあります。


残念だったのは、終盤結構駆け足だったこと。次郎とアリスのやり取り、切り裂きジャック事件の顛末、贅沢を言えばアクション分も合わせて、あと50P……いや30Pは欲しかったです。ページ数制限とかだとしたら、今回他に削るべき余剰な部分があるわけじゃないので、難しいんでしょうけど。


さて、今回なにげに今後を示唆する重要な記述もあったわけですが、この先はどうなるんだろ。個人的にはいつかまた過去編をやってほしいですねー。


おまけ。

  • 初登場時、追っ手から逃げている
  • 逃げ足が早い
  • キーアイテムが食べ物
  • 一人称は「ぼく」
  • 人外

よってアリスはkanonのあゆのパクリということが判明しました。……意外に箇条書きマジックって難しいですね。