駿河城御前試合/南條範夫/徳間文庫

駿河城御前試合 (徳間文庫)


山口貴由のコミック「シグルイ」の原作小説。駿河大納言忠長が主催し、様々な因縁を持つ者が出場した十一の御前試合。その酸鼻を極める様を描く。


全部で十二章あるんだけど、それぞれ独立した話なので連作短編集という趣。なんでも昭和30年代、幾つかの雑誌に七年かけて飛び飛びで発表されたらしいです。「シグルイ」の原作となっている「無明逆流れ」ですら、30Pの短編に過ぎないというから驚き。好色で艶めいた美男や美女がやたら多く、殆どの話が男女間の怨恨から生まれたってのが、最後の方にはやや食傷気味に。それ以外は登場人物も濃いのが多く、漫画の必殺技みたいな秘剣・極意の類もアイディアが奇抜で、非常に面白かったです。ただ、実際の試合の描写自体はあっさりしてて、そこに至るまでの因縁が醸成された経緯の方がメインという感じですかね。以下、興味深かったの幾つか。

無明逆流れ

シグルイ」の原作。隻腕の剣士・藤木源之助と、盲目破足で見目麗しい伊良子青玄。同門の2人の因縁の対決。……各所でも言われてることですが、この原作をどうやったらあの漫画に昇華できるんだ。下手したら原作者はブチ切れてるところじゃなかろうか。でも、本質の部分はちゃんと共通してるのは流石。虎眼先生が普通だったのは残念。ちなみに、この結末を知っても漫画の方の魅力が減じるということはないんじゃないかな……多分。

被虐の受け太刀

叔母に顔立ちが似た美男美女に傷つけられると快感を覚える座波間左衛門の話。……いつの時代もド変態はいるんだなあ。キャラの立ちっぷりは登場人物の中でも群を抜いてます。

がま剣法

太った胴体に短足、醜い顔はガマを思わせる姿をした屈木頑之介。そのコンプレックスの素となった体型を見事剣術に活かす。その姿ゆえ、想っていた女性に馬鹿にされた時の悲哀、とか。高橋陽一のボクシング漫画「CHIBI-チビ-」を思い出しました。

身替り試合

これはネタバレしちゃうと面白くないかな……?なんか、「きみとぼくの壊れた世界」でこういうのあったなあ。老人が「最近の若者はこれだから」と愚痴るのは昔からあった、というのがよく分かるエピソード。


全体的に忠長様があまり喋らないので、その狂気がいまいち伝わりにくかったのが残念。家来が周囲でおろおろしてるだけで。あとは、一気に読むより1日1章ぐらいのペースでちょこちょこ読んでく方がいいかな。一気に読もうと思っても500Pあるから、なかなか辛いだろうけど。


つーかこの人、去年に亡くなられてたのか……。ご冥福をお祈りします。