ロクメンダイス、/中村九郎/富士見ミステリー文庫

ロクメンダイス、 (富士見ミステリー文庫)


主人公のハツは、あと1年で心が死んでしまうとカウンセラーの医師に告げられる。唯一の治療法は、「恋をすること」。そのためにも主人公は、「六面ダイス」という5人の特殊な患者が共同生活を営む洋館に住むことになる。暫くして、彼は「恋をすると死んでしまう」女の子、チェリーに出会う。第4回富士見ヤングミステリー大賞最終候補作……にして、某所ライトノベル板大賞地雷賞受賞作(笑)。


……えーと、まあ批判してる方々の意見はごもっともだと思いました。文章が、およそ人に読ませることを考慮してないっていうか、散文してないというか、もにょもにょ。一言で言うならポエム。つけ加えるなら良くも悪くも高校の文芸部とかの部誌に載ってそうな文章ではあるなあ、と。ぶっちゃけこのセンスは好きなんですが、私自身理解し難いところが多々あったので、あんまり褒めようという気にもならず。ただ、まあ全編意味不明というほどでもないかなーと……え、駄目?むしろ設定周りが抽象的で、説明不足で、意味を読み取れないところが多かったのが私としては問題でした。いや、それが文章下手で設定が解説し切れなかった、といことにするならそれまでだけれど。話の方は、まあそんな奇を衒ったものではないです。社会に適応できない主人公が恋愛を始めとする他者との接触を通して回復していくお話。終盤で出てくる母親の話はちょっとジーンときたし、色々忘れれば読後感もすっきり爽やかでいいんですけどね。

「ハツ、追えば逃げる」
「は?」
「恋愛のカタチの一つだよ。相手は追えば逃げていく。太陽みたいなもんさ」
(中略)
「おれたちがどんな速度で追いかけても、恋は距離を保って逃げていく」
「じゃ、追いかけなきゃいいのか?」
「そうしたら東から昇って、西へ沈んでいく。毎日おれたちの前を横切るんだ。意地悪なんだよ。太陽と恋愛は意地悪なもんだ。で、連中はさっと通り過ぎることが得意なのさ」

こういうこっぱずかしい台詞は大好きです。なんとなく、誰かさんの「ま、落とし穴みたいなもんだ覚悟しておけば、あきらめもつくんじゃねえか?」とかに近いものを……感じませんかね、やっぱり。


なんだろう、独り善がりと言ってしまえばそれまでなんだけど、あそこまで自分の中で空想を煮詰めて、それを曝け出すことができるのは凄いというか、なにか鬼気迫るものを感じました。これを稚拙の一言で切り捨てるのはちょっと惜しいかも。この先が楽しみ。……と、その前にスーパーダッシュ文庫から1冊出てるのか。ま、その内。