星虫/岩本隆雄/ソノラマ文庫

星虫 (ソノラマ文庫)
第1回ファンタジーノベル大賞で最終選考まで残り、1990年に新潮社より出版されたものが10年経って再販。環境問題と、宇宙への憧れと、宇宙からやってきた寄生生物。主人公は幼い頃から宇宙飛行士になることを夢見てきた少女。とある夜、無数の光る物体が全世界に降り注いだ。翌日起きてみると、人々の額に宝石のようなものが取りついていた。それは人間の五感、更には第6感を増幅させてくれることが判明する。「星虫」と名づけられたその物体は、日に日に成長していって……


爽やかな作風と、あまり見栄えがよろしそうには思えない「人間の額に寄生する虫」というモチーフのギャップ。虫がどんどんグロテスクに成長していく様は面白かった。その割に主人公が虫を全く拒絶しないので、見た目の不気味さとか、感覚が増幅されていくことへの怖れとかはあんまり伝わってこなかったけど、多分そこら辺はあまり期待すべきところじゃないんでしょう。


これを読んで感じたのは、とにかく主人公のひたむきさとか、純粋さとか、そういうものでした。そりゃもう、怖いくらいに。はっきり言ってあまり感情移入はできなかった。他の人の感想を聞いてると、それは年取ったからだ、ということをみんな言ってるんだけど……それだけなのかなあ。自分が10年前に読んだとして感情移入できたかどうかはちょっと疑問。勿論主人公が悩んだり苦しんだりしてることは分かるんだけど、最初から最後まで「直観」で虫を拒絶しようとしない彼女は、「ありえないからこそきれい」って類のキャラクターだと思う。で、ありえないものに共感は出来ないと。巫女タイプの、虫を守る女の子って言えばナウシカだけど、あっちはそんな風に感じることはなかったなあ。あっちはファンタジーなのに対し、こっちは一応現代日本が舞台だからでしょうか。つうかこう考えると、ミギー@寄生獣の可愛さが凄い危うい均衡の元に成り立ってるんだってのがよく分かりました。


好きなのは、下のやり取り。

「私も寝太郎君と同じく、ちょっと見かけによらないよ」
「どこが?」
「五歳の時から、隣ん家の男の子が好きだった」
 直人は呆れ顔で、洋子を見た。
「馬鹿、こんな時に冗談言うな。お前と俺とは、ただの幼なじみだろ?」
 洋子は何も言わず、その鈍感男の手をひねり上げた。

(*´Д`*)

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