獣たちの夜 BLOOD THE LAST VAMPIRE/押井守/角川ホラー文庫

獣たちの夜―BLOOD THE LAST VAMPIRE (角川ホラー文庫)


舞台は1960年代末の日本。学生闘争のデモに参加した夜、主人公は殺人現場に遭遇する。そこにいたのは、血の滴り落ちる日本刀を手にしたセーラー服姿の女子高生だった。後日、停学中の主人公のところに刑事が訪ねてきて、同じく高校生活動家の仲間と共に捜査に協力させられる。


劇場版アニメ及びTVアニメのどちらとも、設定を異にする小説。『イノセンス』が、哀愁漂う中年男が女のケツを追っかける刑事ドラマだ、というくらいには、少しばかり口先が達者なだけのの高校生が挫折を経て大人になってしまうという、ほろ苦い青春小説。


政治活動家と言っても一介の高校生に過ぎない。最大の闘争の場は学校と家庭であり、街頭での活動は言わば唯一の安息の場である。私立高校で可愛い女の子と過ごす青春に爽やかな羨望の眼差しを送り、冴えない我が身をかえりみて絶望し、「同志」たちとホモソーシャルな社会で騒ぎ立てる。そういう、こんな『ぼくらの七日間戦争』は嫌だ!といった態が愛らしい。


押井守らしくペダンチックな作風で、特に長ったらしい議論が延々と続く箇所が二つある。その内の一つは、焼肉屋で肉を頬張りながら死体の処理方法と吸血鬼の伝承について延々と議論するんだけど、こちらは話の中身と高校生がバカ騒ぎしながら肉を奪い合うというギャップが、どこか懐かしくも面白い。「うる星やつら」の連中がメシ食ってる横で「パトレイバー」の後藤さんがブツブツ言ってるような感じ。もう一つ、終盤の進化論について議論するくだりは前者ほどのユーモアが感じられなくて退屈だった。


立喰師列伝』はアニメのほうが好きだけど、これは映像にして面白そうなのは件の焼肉のシーンくらいであんまり見所はないかな。アクションなら北久保監督の劇場版観ればいいし。