秋田作品における絵師との相性


新作に飢えた末の苦し紛れ企画。なんで『パノ』載ってないんだくそう。単行本にいたっては最新刊からもうすぐ1年になるよ。この人の作品読み始めてから、こんなに間が空いたの初めてだ……。

若菜等+Ki(ひとつ火の粉の雪の中)




記念すべき第1作の絵師の人。……なんですけど、えーとすいませんよく知らない方です。あの絵柄と現在の流行を考えればさもありなん、という感じなのだけど、最近のライトノベル界隈ではではあまり見かけませんね。比較的近いと思われるところでは、SF系、笹本祐一妖精作戦』1巻の表紙をしていたりするようです。現在では、児童向け文庫などの仕事がメインなのかな?(http://www.bk1.co.jp/author.asp?authorid=110001092250000


『ひとつ火の粉』はその幻想的な雰囲気がよく特徴に挙げられますが、、間違いなくその雰囲気の醸成に貢献した人。作者自ら『描写がまるでない』と言っているあの抽象的な話を、よくもああビジュアル化したなあ、と感心します。


後々調べたら、『風の大陸』の一部もこの人の仕事なんですね。

草河遊也(魔術士オーフェン)

我が聖域に開け扉〈下〉―魔術士オーフェンはぐれ旅 (富士見ファンタジア文庫)



オーフェン』と言えばこの人、この人と言えば『オーフェン』という人がいまだに多いのではないでしょうか。……というのを、『BBB』アニメ化の際、『オーフェン』の言及数が一気に増えたのを見て確信しました。まあ、10年近くコンビ組んでりゃ、そりゃそうなってもしょうがないよなあ、と思うのですが。


今はなき『キャプテン』(だったかな?)『コミックGAIA』で漫画家としてデビュー。小説イラストは、多分『オーフェン』が初めてのはず。長年やってるだけあって、シリーズ進行中に絵柄もどんどん変遷していってます。大雑把に分類するなら、表情とかがいかにも漫画描いてる人のキャラっぽく、オーフェンの目つきもそんなに悪くなかった1部前半、段々こなれてきた1部後半、キャラの顎は尖り目は小さくなりなんだかナイーヴな感じに。背景は徐々に白くなっていった2部前後半……といったところかな。んで、多分お話にしてもイラストにしても、二番目の1部後半を褒める人が多い、と思うのだけど、これひょっとしてイラストの方が物語の展開に雰囲気を合わせたのかな、と思わなくもないです。実際、西部編の絵であの暗い重い頭部編をやっても合わなそうだし、その逆も然り。だから、背景が白いのも、荒涼とした東部と荒んだキャラの心情を云々……もうこの程度でいいかな。


そういえば、オーフェンがバンダナしてるのはこの人がイラストにする時点で付け加えたんでしたっけ。


『BBB』など見る限り、ここ数年は安定してますね。他に一緒に仕事したのは、森岡浩之茅田砂胡など、結構な大物が続いてます。



椎名優(エンジェルハウリング)

エンジェル・ハウリング〈1〉獅子序章‐from the aspect of MIZU (富士見ファンタジア文庫)エンジェル・ハウリング〈10〉愛の言葉‐from the aspect of FURIU (富士見ファンタジア文庫)


ドラマガでの『オーフェン無謀編』連載終了と入れ替わりにスタートしたシリーズ。椎名優は『月と貴女に花束を』で既に結構有名だったような気がするけど、それだけに、『オーフェン』からの草河イメージが払拭できなくて、「秋田作品は草河絵でないと」という人は結構多かった気がします。草河絵はちょっと泥臭いというか、モノクロなイメージがあって、それが『オーフェン』という作品によく合ってたと思うのだけど、椎名絵は逆に華やかで、塗りが綺麗な人なので、イメージとしては全く正反対。でも、結果的には『オーフェン』よりファンタジーファンタジーしたあの世界観には合ってたと思います。これは最近思いついたことなんですけど、基本的にライトノベルの絵師との相性って2種類あって。テキストの持つイメージにぴたりと合致する場合と、テキストにない魅力を引き出し、ファンを惹きつける場合。多分、草河絵が前者で、椎名絵は後者に当たるんじゃないかな、と。全然関係ないけど、『イリヤの空』の秋山瑞人こつえーの関係も、後者に当たる気がします。


エンジェル・ハウリング 硝化の声―椎名優画集

エンジェル・ハウリング 硝化の声―椎名優画集

黒星紅白(閉鎖のシステム)




この巻が出た頃には既に『キノの旅』も3巻が発売されていて、話題になってはいたけど、まだ電撃の看板、というほどでもなく、それこそちょっと変わったファンタジー小説があるんだぜ(まだ『ライトノベル』っていう言葉はなかった/それほど普及してなかった)、というくらいの扱いだったと思います。


内容もまあアレなんですけど、この作品に関してはイラストも頻繁に突っ込まれます。なんで腰に扇風機がついてるんだとか、なんでネコミミやねん、とか。まあ、確かに奇抜な衣装ではあるのだけど、現代物だからと言って必ずしもああいう格好をさせちゃいけない、というわけでもないしなあ。舞台は巨大なショッピングモールの中だけに限定されてて、外の世界も何もないし。例えば、「我々が知っているのと同様の」昭和58年にメイド服着た女の子が、ってんならそれは世界観が壊れるかもしれないけど、この場合壊されるべき世界観がないというか。登場人物にマトモな格好してる人がそもそもいませんしね。まあ、不条理劇みたいなもん?なんでああいう格好をさせたか、というのは黒星先生に聞くしかないのだけど、少なくとも私はあんまり気にならなかったかな。


なんか、あの衣装は編集の人が「演劇っぽくしてください」と黒星に頼んだらしいけど、そう言われればそう見えなくもない。

依澄れい(シャンク!!ザ・レイトストーリー)

シャンク!!ザ・レイトストーリー〈VOL.1〉 (角川スニーカー文庫)


この人は、なんと紹介すればいいのか……。鍵系同人で有名な人?漫画版『ぷに.hack』の人?ともかく、『シャンク!!』は気がついたら『ザ・スニーカー』で連載が始まっていたという感じで、あまり注目度は高くなかったと思うのだけど、それでもやっぱり絵師に関して拒絶反応みたいなのは出ていました。あのポップな絵柄に対して。でも、途中の絵師交代劇によって相対的に評価は上がることに。

つたえゆず(シャンク!!ザ・ロードストーリー)

シャンク!!ザ・ロードストーリー VOL.1 古木の森 (角川スニーカー文庫)


『レイトストーリー』と『ロードストーリー』には、雑誌連載と単行本書下ろしという発表媒体の違い。ギャグ寄りとシリアス寄りというテンションの違い。そして絵師の違いがあります。三つ目の絵師交代は、前任者の体調やスケジュールなどが原因ではないか、という噂もありますが、噂はあくまで噂ですし、さして興味もありません。ここで問題にしたいのは、物語自体の仕切り直しと同時に絵師交代が行われたことで、本来なら読者はもっとストレスなく交代劇を受け入れることが出来たのではないか、と思うのです。少なくとも中途半端なところで交代されるよりは。こと絵柄だけに関して言えば、殺伐とした雰囲気が増した『ロードストーリー』には、依澄れいのそれよりもつたえゆずのそれの方が合っていた、と思わなくもありません。キャラの等身とか、色々含めて。


分からないのは、何故この人だったかということで。『オーフェン』はそれなりに女性ファンがいたっぽいし、BL界隈で有名な絵師を連れてくることがそうした層へのアピールになる、と思ったのでしょうか?実際、某所で言われてるほどに下手か、BL臭がするか、そして絵師目的の新規読者がいたのかはよく分かりませんが、どうも既読者にはあまり受けがよくなかったようです。

渡真仁(愛と哀しみのエスパーマン)

愛と哀しみのエスパーマン (富士見ファンタジア文庫)


この人に関しては、あまり言及されてるところを見たことがありません。その前に散々紛糾したからかな?ライトな内容によく合ってると思います。

きゆづきさとこ(パノのもっとみに冒険)


(現在単行本化未定のため、連載1回目の表紙絵から)


んで、唯一現在進行中の作品。これを上の作品群と同列に並べるのは、ある意味間違っています。『パノ』はきゆづきさとこ原作の漫画であり、秋田禎信はそれをノベライズしているに過ぎないからです。そういう意味では、絵師が秋田に合わせたというより秋田が絵師に合わせた、と言えなくもなく、最近の秋田で(そもそもそんな仕事してないけど)一番のお気に入りがこれ、というのは少々寂しくもあるけど、でも中身はしっかり秋田して面白いので問題なし。なんにしても、この2人の組み合わせというのは大層好き。なんか抽象的な言い方になっちゃいますけど、絵柄に包容力がある、というか。


つーか、自分の漫画を他人がノベライズしたものに挿絵を描くってどういう気分なんだろうな―とか思いました。